作戦会議と突入 1
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サロンのテーブルの上に置かれていたティーセット類は全て片付けられ、代わりにベーメンドルク伯爵領の地図が広げられている。
「廃村は確かこのあたりだ。ミヒェル殿が暮らしているコッヘン村から……そうだな、歩いて三、四時間というとこか」
伯父様が地図の上を指さしながら位置関係を教えてくれる。
わたしもね、シュティリエ国に嫁いだことだし、地理とかはお勉強したのよ? だけどさすがに廃村の場所とかはわかんないからね。
「民家はほぼ壊されていたはずだが、今の状況はわからない。土砂崩れの危険があったのはこの山だな。今は多少なりとも草木が生えて、昔ほどの危険はないと思いたいが」
伯父様も、長らく立ち入り禁止としていた廃村が、今どういう状況なのかまでは知らなかったようだ。
それにしても、当時このあたりで魔王が暴れていたのね。王都から結構近い距離じゃないの。伯父様が剣を抜いて突撃するはずだわ。対応が遅れていたら王都が侵略されていたかもしれないもの。
当時の王太子が何やってんだ、と思ったけど、ぐだぐだと議論している暇もなかったのかもしれないわね。
「多少なら私がわかります。今は廃村の東側に、そうですね……、横幅十メートルほどの平屋が建てられていて、排斥派の魔人たちはそこを住処としているようです。他にも二階建ての小さめの家があり、こっそり様子を見に行った時には、妻はここに捕らえられているようでした。排斥派は人間を毛嫌いしていますからね、同じ邸で暮らしたくなかったのでしょう。妻が捕らえられている家の前には常に見張りが一人か二人立っています」
「邸からその家まではどのくらいの距離がありますか?」
「ほどほどに離れていますよ。とはいえ、村の中ですからね。歩いて五分ほどでしょうか」
歩いて五分ほどかぁ……。
見張りの魔人をどうにかできても、すぐに応援が駆けつけてくる距離ね。
……って、魔人はテレポートが使えるから、距離が離れていたって関係ないんだったわ。
「廃村で暮らしている魔人たち全員を引き付けて置いて、奥さんをこっそり回収するしかないわよね……」
「妻さえ取り返せれば、私も動けますけど……」
「ミヒェルさん、六人相手にできます?」
「さ、さすがにそれはちょっと」
ですよね~。
魔人たちを引き付けて奥さんを助けた後で、ミヒェルさんが魔人六人を蹴散らせるのならまだ勝機はあったが、さすがに六人を相手にするのは無理があるわよね。
「奥さんを助けた後で、隙をついて逃げることができればいいんだけどね」
ライナルトがうーんと唸っている。
そうよね。その問題もあったわ。
ミヒェルさんの奥さんを運よく助けられたとしても囲まれたんじゃあ意味がない。
結局ミヒェルさんの奥さんを奪い返されて、ついでにわたしたちは魔人たちにぼっこぼこにされるだろう。というか高確率で殺される。
「それなら、妻を救出した後で私がテレポートで皆さんを移動させましょうか」
ミヒェルさんが顎を撫でながら思案顔で言った。
……へ?
わたしたちはいっせいにミヒェルさんを見る。
「あの、魔人の方たちが使うテレポートって、他の人も飛ばせるんですか?」
「大勢は無理ですけど……そうですね、五、六人程度なら一緒に運べます」
なんと‼
……ライナルト、お兄様、どうですか⁉
これならまだ作戦が立てられるのではなかろうか。
お兄様は「ふむ」と頷いてしばらく黙り込んでから顔を上げた。
「それは、人以外にも使えますか? 例えば物を運ぶこともできるんでしょうか」
「もちろん可能です」
「…………なら、この作戦で行けるか。この世界にアレないもんな。たぶん騙せる」
お兄様が再び視線を落としてぶつぶつ言いはじめる。
これは、何か名案が浮かんだようですよ?
ナルシストなお兄様だけど、こういう時は頼りになるんです。
お兄様はしばらく一人でぶつぶつ呟いた後で、ミヒェルさんを見た。
「計画を立てる前に、廃村の状況をこの目で見ておきたいです。魔人たちに気づかれず、こっそり様子を見に行きたいんですが、できますか?」
つまり、偵察に連れて行けということですか。
お兄様もなかなか無茶をしますね。
ま、ミヒェルさんのテレポートが期待できるからこその作戦だろうけど、もしミヒェルさんの顔が魔人たちに見られたら大変よ? ミヒェルさんが排斥派に与しないつもりだって思われて奥さんが傷つけられちゃうわ。
ミヒェルさんも真剣な顔で悩んでいる。
「……夜であれば。ただ、夜だと、視界が悪いですけど」
「それで構いません。細かいところまで確認したいわけではないので」
「お兄様は一体何を企んでいるの?」
秘密にしていないで教えてほしいな~と視線を向ければ、お兄様はにやりと笑った。
「ヴィル、撮影会をするぞ」
だから~!
お兄様は何をするつもりですか~?







