魔人との交渉 6
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「……我々魔人の内情をどこまで話していいのか迷うところですが、トルデリーゼの件もあるのでこの際だからお伝えしておきます。少々ややこしい事情なのですがよろしいですか?」
わたしたちは顔を見合わせ、頷き合う。
人類が魔人の内情にあまり首を突っ込むのはよくないのかもしれないけれど、ここまで巻き込まれたのだから詳しく知りたい。
ミヒェルさんも頷き、目を伏せたまま続けた。
「アルブレヒトが魔王の資格を得てから、排斥派の中でアルブレヒトを排除しようと考える者たちが現れました。その主たるのがクリスタラー……マルトリッツの兄です。先々代魔王には、クリスタラーとマルトリッツの、二人の息子がいました」
今の排斥派のトップはマルトリッツさんなのに、彼にお兄さんがいるってことは、もしかして……。
わたしが知らず知らずのうちにこくりと唾を飲み込むと、その微かな音に気が付いたのか、ミヒェルさんが顔を上げて苦笑した。
「クリスタラーはもういません。およそ一年前……クリスタラーは、アルブレヒトによって滅ぼされました。厳密に言えば、クリスタラーがアルブレヒトを殺害しようとし、結果、アルブレヒトによってうち滅ぼされたのです。アルブレヒトも、その時に死にました」
「魔王が、相打ちですか……」
「相打ちというのは少し違いますね。アルブレヒトの実力は本物でした。だけど、あの時は分が悪かった。排斥派の多くの魔人がアルブレヒトの排除に動いた。そしてアルブレヒトはアルブレヒトで、魔人同士の衝突を極力避け、本気で相手ができなかった」
「排斥派の魔人たちがアルブレヒトさんを狙ったのはどうしてですか?」
「それは簡単な話です。アルブレヒトが死ねば、魔人たちの中でまた新たな魔王が誕生する。クリスタラーは排斥派の魔人たちの中ではマルトリッツと並んでトップの実力があった。アルブレヒトが死ねば、クリスタラーかマルトリッツのどちらかが次の魔王になる可能性があったんですよ」
だから、アルブレヒトさんを殺害したのね。自分たちが力を得るために。
魔人というのは、ある意味わかりやすいと思う。
人と違い、魔王となる存在は、世界が選ぶと言っても過言ではないからだ。
魔王が死ねば、魔人たちの中の誰か一人の力が膨れ上がり、魔王が誕生するのである。
自分がなりますとか、自分がやりたいですとか立候補するわけでもない。
だが逆に、それゆえに納得できない魔人もいるってことよね。
「排斥派の姦計により、魔王アルブレヒトは死にました。その際、アルブレヒトを守ろうとした彼の両親も共に」
……つまり、その時にトルデリーゼは家族を失ったのか。
いろいろふざけた子だけど、両親と兄を一度に失ったと思うと、何とも言えない気持ちになるわね。
トルデリーゼはまだ成長期で、見た目通りの年齢のようだから……、そんな幼いころに家族が全員いなくなるなんて。もし自分がその立場だったらと考えると――怖い。とてもとても、怖い。
小さく震えたわたしに気づいたライナルトが、そっと肩を引き寄せてくれた。
「マルトリッツがその時クリスタラーと共にアルブレヒトの排除に動いていたのかは知りません。アルブレヒトはあのとき、他の魔人を巻き込まないように遠ざけていたので、共存派の魔人は誰も彼の最期に立ち合えなかったのですよ……。ただ、マルトリッツが、自分か、兄のクリスタラーが次の魔王にと願っていたのは本当です」
「でも、次の魔王はトルデリーゼだったんですね」
「ええ。マルトリッツにとってそれは大きな誤算だったでしょうね。クリスタラーが死んだこともそうでしょうが、もしかしたらそれ以上にトルデリーゼが魔王になったのは彼にとって大きな問題だったでしょう。共存派は、魔王アルブレヒトが殺害されたことで結束を固くして、トルデリーゼを守ろうと周囲を固めました。トルデリーゼに手出しすれば共存派が黙っていない。排斥派の魔人たちは、アルブレヒトのとき以上にトルデリーゼに手出しができない状況になったんです」
……自分に都合がいいように持って行こうとして、余計に都合が悪くなったってことよね。お粗末としか言いようがないけど、そんなことで幸せな子供から家族を奪うなんて許せないわ。
とはいえ、クリスタラーやマルトリッツは、父親を人間に殺されている。
わたしたちからすれば、人に危害を加える魔王なんて放置できないから仕方がないのだけれど、彼にしてみたら親を殺されて仕方がないと思えるはずもない。
人類に復讐するために力を望んだと考えると、その気持ちがまったくわからないわけでもない。まあ、逆恨みだとは思うけど。
「排斥派の魔人たちの計画は失敗し、私たちは彼らがしばらく大人しくなるだろうと踏んでいました。排斥派は人数が少ないですし、こちらを怒らせたあとです。下手を踏めば共存派が束になって彼らに制裁を加えに行きかねない。もちろんそんなことになれば世界が大変なことになるので、私たち共存派も、あちらが大人しくしているなら手を出すつもりはありませんでした。……まあ、共存派の中でも過激な一部の魔人は、排斥派を完膚なきまでに叩くべきだとか息巻いていたものもいましたけどね」
やめてください。
心の底から、やめてください。
世界の滅亡がかかった魔人同士の戦いとか、マジで勘弁ですから‼
ミヒェルさんの話は、いろいろと心臓に悪いわ。
淡々と話しているけど、人類にとってはとんでもなく恐ろしい内容ですからね?
人類代表として、お願いですから魔人同士仲良くしてくださいよと懇願したいところよ。
魔王を倒した勇者な伯父様も、さすがに顔色をなくしている。
伯母様なんてかわいそうに、今にも気を失いそうだ。
ディートヘルム殿下も青ざめている。
ライナルトとお兄様はまだましだけど、さすがに顔から社交的な笑顔が消えていた。
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