↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六人のトラワレビト  作者: よるねこ。
√A 6人のトラワレビト
36/38

EP35--椎名優10――記憶違い

2022年 11月25日 14時02分


気が付くと地面が揺れていた。最初は微かな揺れだったのだが徐々にその揺れは大きくなる。


目が覚めてすぐに周囲を見渡す、ここはトンネルの中。少しだけ離れたところで綺堂院さんの叫び声が聞こえた。


その声のほうに視線を向けると、立ったままでは揺れに耐えきれなかったのだろう、蹲って必死に綺堂院さんに手を伸ばしている白埼さんの姿が見えた。


その光景を見た瞬間、近くにいるはずの3人が居ない事に気が付く。慌てて周囲を見渡した。


僕のすぐそば、綺堂院さんたちとは反対側に涼香ちゃんの姿を発見――考えるよりも前に手と口が動いた。


「――涼香ちゃんも僕の手をしっかり握っててっ!」


咄嗟にそう叫びながら涼香ちゃんの手を掴み、開いているもう片方の手でその体を抱きしめ、その体制のまま未だに姿の見えない2人、静香さんと修一さんの姿を探すがどうやら近くにはいないようで、


――無事でいてくださいよ、静香さんたちっ!


徐々に激しさを増す揺れの中、腕の中にいる涼香ちゃんを連れて探し回るのは不可能だと判断し、心の中で祈りながら腕の中にいる涼香ちゃんに目を落とす。涼香ちゃんは僕の言葉を守るように握り合った手にしっかりと力を込めながら目を塞いでくれていた。


――全員を守る力なんて僕にはないんだ。なら目の前の、涼香ちゃんだけは絶対に守りきる!


そう心に決めながら天井からの落下物がないか注意深く観察しながら揺れが収まるのを待った。


―――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――


―――――――――――



――どれだけ時間が経っただろう。あらゆるリスクに備え、警戒を続けていると徐々に揺れは小さくなっていき完全に収まった。


「涼香ちゃん、大丈夫? 」


腕の中にいる涼香ちゃんに極力優しい声で尋ねる。そっと頭をなでると涼香ちゃんも安心したのか、


「うん、大丈夫なんだよ……」


とまだ少し強張っていたがはっきりとした笑みを浮かべながら答えてくれた。


その声に返事を返すより前に、綺堂院さんたちに視線を向けると、


「興、立てるか? 」


「大丈夫、だよ……」


ちょうど綺堂院さんが興さんの手を引っ張り、立ち上がらせている姿が見えた。


「ふぅ……」


幸いこの場の全員、大きな怪我がないようで安堵のため息が漏れる。緊張していたのが解けたのか、抱きしめるために込めていた腕の力が抜け、握り合っていた手も放してしまった。


そのまま脱力して地面に倒れ込みたい。そんな欲望に必死に抗っていると、興さんの手をしっかりと握ったまま綺堂院さんが、


「おい椎名達っ!お前たちは無事か? 」


と声をかけながら駆け寄ってきてくれた。


「僕は大丈夫です、涼香ちゃんは……」


そう答えながら涼香ちゃんを見る――


「私も大丈夫なんだよ」


涼香ちゃんもだいぶ落ち着いたのだろう。揺れが収まった直後の力の入った笑みではなく、自然な笑顔を浮かべながら答えていた。


「だそうです。お二人も怪我とかしてないですか? 」


「あぁ、何とかな」


笑みを浮かべながらそう答えてくれる綺堂院さん。


でもその笑みはほんの一瞬だけだったようで、すぐに険しい顔で、


「なら急いで悠野姉たちのところに戻るぞ」


と言った後、背を向けて歩き始めた。


「はいっ! 」「了解なんだよ」「そうだね」


その背を追いかけながら僕が肯定の意を示すと全く同じタイミングで他の二人の声も響いた。


最初の地震が起きてからまだ1日も経過していない。揺れた回数も3回だけのはずなのに既に足元にはたくさんのコンクリート片が落ちているということに気付く。それを避けながら歩いていると今度は頭上にあったであろう、トンネル内を照らしているはずの照明。それがほぼひとつ、丸ごと落ちてきていた。


――こんなものが頭に降ってきていたらひとたまりもなかっただろうな。……本当にここにいるみんなが無事でよかった。


「涼香ちゃん、今まで以上に何が落ちているかわからないからしっかり僕の手を掴んでてね」


転ばないように目線を下に向けながら涼香ちゃんにそう声をかけると涼香ちゃんは僕の手に力を込めてくれた。


その手のぬくもりを感じながら少し前を歩く綺堂院さんの後について行く。


――揺れが完全に収まり、近くにいた人全員の無事を確認した。二次災害への警戒は続けているが今のところ足場が悪い事意外は問題なさそうだ。


そう判断し小さく息をついた途端、ふと違和感に気付く。


――今の地震が起きる直前、僕は何をしていたのだろう? ……あぁそうか。でも、あれ?


「……綺堂院さん、僕たち道を間違えていませんか? 」


そうだ、綺堂院さんたちと一緒に食料を取りに向かったのは出口方面で、静香さんたちがいるのは入口方面のはず。なのに今向かっているのは出口方面で……



「……は? 」


前を歩いていた綺堂院さんが振り向く。


「ですから道、間違えていませんか? 食糧のある場所って僕たちの車よりも出口側ですよね? 」


きょとんとした顔をしている綺堂院さんにそう続けると、


「そうだが……なぁ興。椎名はいったい何を言っているんだ? 」


僕の言葉を聞き、更に困惑した表情を浮かべながら白崎さんに問いかけようとする。


だがその問いは白崎さんが口を開く前に別の人によって遮られた。


「待って綺堂院さんっ! 」


急に大きな声を出したのは涼香ちゃんだ。


「……なんだちんちくりん」


僕のすぐそばで大きな声を出した涼香ちゃん。その声にびっくりしたのか耳を押さえながら不機嫌そうに綺堂院さんが訊ねると、


「優くん、元に戻ってるんじゃ……」


とよくわからないことを言い始めた。


――戻る? 一体何が戻ったというんだろう?


「――そう言うことか! 」


僕が頭の上にはてなマークを浮かべていると、涼香ちゃんの言ってることが理解できたらしい綺堂院さんが心なし嬉しそうに叫ぶ。


「何がどうなってんのかよくわかんねぇけど……よかったな! 椎名っ! 」


そう言って涼香ちゃんとつないでいるのと反対側の手を握りしめられ、強く上下に振られる。捻挫しているであろう右腕を。


「いててててっ! ちょっ綺堂院さんっ! やーめーてーっ! 」


――ゴッ!


突然響く鈍い音。それは白埼さんが綺堂院さんの頭をはたいた音で、


「痛ってぇ!」


不意の衝撃に頭を抑え、蹲る綺堂院さん。……今のは僕の揺らされていた手よりも痛そうだなぁ。


「椎名君はそっちの手、痛めてるから、だから激しく揺らしちゃ、ダメ」


「すまん椎名……」


「も、もうしないなら許しますよ」


白崎さんに叱られてしょんぼりとした顔で謝ってくる綺堂院さんに苦笑する。


そのやり取りを見ていた涼香ちゃんも揺らされた僕の手を優しく撫でてくれながら、


「綺堂院さんはしつけができてないわんこなんだよ……」


と呆れた顔で呟いていた。



一通り綺堂院さんが怒られながら入口方面に歩いて、見慣れた僕の車がある場所にたどり着く。……どうやら道を間違えていたのは僕だったらしい。


一先ずは静香さんたちと合流しよう。そのあとに綺堂院さんたちに謝ろう、そう考えながら姿の見えない静香さんたちの姿を探す。


「お姉ちゃーん! お父さーん! みんな戻ってきたよー! 」


涼香ちゃんが大声で呼びかけてみる。だがその呼び声に反応がなく、僕の脳裏に嫌な予感がよぎる。


悪い想像に囚われそうになっていたとき、いつの間にか後ろにいた綺堂院さんが、


「……興、涼香と一緒に車に乗って待っててくれ。椎名っ!手分けして探すぞ! 」


涼香ちゃんと繋いでた僕の腕を少しだけ強めに引っ張りながらそう提案してくれた。


「ちょっ……綺堂院さんっ! 探すなら私も一緒に探すんだよっ! 」


綺堂院さんの提案にすぐ涼香ちゃんが反論する。僕の手を握る力を強めた。


だけど綺堂院さんはそんな涼香ちゃんを僕から強引に引きはがし、白崎さんのほうへととんっと軽く押した。


「人手がいると判断したらすぐに戻ってくる。さっきの地震が余震なら今度はもっと強い揺れが来るはずだろ? だからお前たちは車の中で待っててくれ」


綺堂院さんの顔は真剣で、涼香ちゃんは渋々といった表情ながら小さく、わかったんだよ……とつぶやいて白崎さんと一緒に僕の車に乗り込んでくれた。


それを綺堂院さんと二人で見届けたあと静香さん達の捜索に向かうことにした――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。