ふたりのメイド・ふたりの距離
女は強い。
それは今も昔も同じだ、いくら可憐な容姿をしていて可愛い服装をしていても、その内に隠された本性を見抜かないと必ず痛い目に合う。
それは肉体的にも、精神的にも…。
「申し訳ありませんがY様、この部屋から出ることは禁止されてますので。」
俺を動きを封じているメイドが耳元で囁くようにそう言った。
「そんなこと誰の命令だ?」
「それはご主人様です。」
「ご主人様…?」
そのご主人様と言うのは多分あの声のやつだろう。
「わかった、もう部屋から出ないから離してくれない?いい加減我慢の限界だ!」
「ダメです。」
俺の願いは一瞬で打ち破られた。
「何ででだよ!本当に痛いから!ギブ!ギブアップ!!」
「ダメです、前例がありますから。」
「前例…、もしかして…?」
俺は絵空のいる方向を見た。
彼女は
「えへへへへ~」
と頭の後ろをかきながら、どこか申し訳なさそうな笑顔をしていた。
「やっぱりお前かぁ~。」
そういえば彼女はこの人達と戦ったんだよな、だから彼女は自分よりこのメイドのほうが強いってしていたんだ。
「絵空様、申し訳ありませんが私今見ての通り手が離せないのでその荷物の中身を確認してくれませんか?」
「ほーい!」
絵空はメイドが持ってきた荷物のもとに行き、布をめくり中を確認した。
入口にいるもう1人のメイドはあくまでもそこから動かないつもりだ。
「オッケー!大丈夫だよ~!」
彼女は何故かとても嬉しそうだった。
「では私達の役目はここで終わりです。」
そう言うとメイドは静かに俺の拘束を解き、俺の元から離れていく。
そしてもう1人のメイドのいる入口に向かった。
「ではなにかご用がありましたらいつでもお呼びください。」
そう言ってふたりは深々とお辞儀をした。そして重い重いドアを朝飯前のようにに片手で閉めた。
「なんなんだ、あのメイドは?」
「なにってさっきから言ってるじゃん、私達のお世話役だって。」
「まあそうなんだけど…、ところでその布の中はなんなの?」
「よくぞ聞いてくれました…。そ・れ・は・ね、じゃーーーん!」
彼女は誇らしげに布をめくる。
「ちゃんとY君のもあるよ、私に感謝しなさい!」
「こ…これは…。」
そこにあったのは俺と絵空が今着ているものと全く同じ制服だ。
「ほら、何日たった分かんないけど、お風呂があるからって同じ服着てると臭くなるじゃん?これしかないから寝るともこれだし、寝ると汗かくし、だから替えの着替えを持ってきて貰いました。」
「でもそれいつ頼んだの?」
「あれ、Y君気づいてないの?私Y君が起きてから頼んだよ。」
俺は目覚めてから頼んだって言われても、ここには電話なんてないから外部と連絡を取る手段なんてない…
「あっ!」
俺はあることに気づいた。俺が目覚めて少したった時彼女がわざとらしく着替えが欲しいと大きな声で言っていたことを。
「まさかあの時のやつ?」
「そう、大きな声で頼み事を言えば来てくれるって言ってたやってみたの。私もあれが初めてだったから本当に来た時は少し驚いたけど。」
「そうなんだ~。」
「それにここのものが少しでも無くなったり、お腹が空いたらすぐにやってきて準備してくれるよ。」
「ほんとにお世話役の鏡だな。」
「だよね~。」
いい意味で考えると本当に理想的なメイドだ。しかし逆に考えるとここは盗聴や監視を入念にしており、少しでも不審な動きをしよういうならすぐに駆けつけて対処できるという忠告をしているのと同じだ。
待遇こそ最高に見えるが、実際は刑務所の囚人と全く同じだ。
「ところでY君?」
「うんっ?」
俺達は順番に部屋に設置してある風呂に入り汗を流し、メイド達が用意した制服に着替えた。ためしに冷蔵庫に入っていた飲み物を飲んでみた。もし殺す気があったらいつでもやれたはずだ、それはきっと俺達が特異体質だからだ。、なので彼女達は俺達を殺す気はない。だから安心して飲み物を口にすることができた。
絵空の言った通り、飲み物が1つ無くなっただけでメイド達が再び現れ、その飲み物と全く同じ物を冷蔵庫に補充し、何事もなかったように帰っていった。
「さっきのY君なんだかおかしかったよ。」
「なにが?」
「なにがっていうかなんというか…なんか焦ってるように見えた。」
「ああそれは…」
俺はベッドに向かい静かに座った。彼女も俺の隣に座ってくる。
「多分あの校舎のことだよね?私いきなり倒れちゃってなんにも分からないの、一体なにがあったの?」
あそこであったことを彼女に話してもいいのかと俺は悩んだが、気づいたら俺は彼女に全てを話していた。
あの街のこと
クラスメイトのこと
戦闘員のこと
絵空のこと
そして俺自身のこと
そして
「これが君が倒れてから起こった全てだよ。」
「そう…。」
さすがの彼女もショックを隠せなかった。自分の正体や一緒いた人のことも知ってしまったんだから…。
でも彼女は
「Y君!」
絵空は俺にいきなり抱きついた。
「な…なんだよ、いきなり!」
「いいの私がこうしたいのだって…」
「…」
「だって…Y君が可哀想…。」
「それは絵空だって一緒だろ…?」
「私はもういいの、だってもう沢山泣いたから、だから次はY君の番だよ。」
その言葉を聞いて、俺の中にあるいろいろな思いが涙になって溢れだした。ここまでくるともう俺にはどうすることもできない。
「辛かったよね…、悲しかったよね…、よく1人で頑張ってきたよね…。」
それから、気づいたら俺達は同じベッドで寝ていた。(そもそもベッドが1つしかないから当たり前だが)
あれからどのくらい時間がたったのだろうか…。全く分からない。
けどあれ以来少し遠くなっていた俺と絵空の距離は元に戻り…いや、前以上に近くなったような気がする。
「私達また汗かいちゃったね!」
「うん、また着替え用意してもらわないといけないね。」




