アミーリアの奔走
アミーリアの動きはピエールに察知されていた。
ピエールが一番恐れていたのはアミーリアの介入だったからだ。
そしてアミーリアの推測通り、神父とピエールは裏で繋がっていた。
盗んだ金のうち、金貨1枚を教会に寄付金という名目で渡したのだ。
その代わり、神父にはメアリーの犯行を確定させて処刑まで持っていくように依頼した。
メアリーは父親だけでなく神父にまで裏切られたのだ。
「神父様、ここでアミーリア様にあの女を助けられたら我々の仕業だとバレる可能性があります。あの女の処刑を急いでもらえませんか」
「本当にメアリーを処刑して大丈夫なのか? アミーリア嬢が助けるために奔走されているんだぞ。自白なしで処刑にするのにも無理があるぞ」
「どうせ口も聞けません。沈黙を持って罪を認めたとでもしておけば良いでしょう」
「強引すぎる。後で問題になっても知らないからな」
「いくらアミーリア様でもあの女が死んでしまえばそれ以上動く事はありますまい。平民の女1人いなくなるだけの事ですよ」
アミーリアは隣町の最高権力者、国の重鎮であるラドフォード公爵家の令嬢で、その美貌と見識は貴族であれば知らない者はいない。
ピエール達の街は同じく国の重鎮であるロスメル公爵が統治しているが、アミーリアがこの街で調べたい事があると言えばロスメル家は出てくる事はあるまい。
そしてピエールの悪事が明るみに出ればロスメル公爵に報告し、このような不祥事を許してはロスメル公爵のお名前に傷がつきますと言えばピエールは確実に処刑である。
隣街の公爵令嬢といえどもアミーリアにはそれだけの力があるのだ。
睨まれたら助からないという恐怖がピエールたちにはあった。
だからこそ、アミーリアが証拠を掴む前にメアリーを処刑しておきたかったのだ。
☆☆☆
アミーリアはメアリーの父親を尋問していた。
「借金をどうやって返済したの?」
口をつぐむ父親に対してアミーリアは厳しく追求する。
公爵令嬢の彼女には護衛の騎士が2人ついている。
騎士に両腕を掴まれて逃げられない状況で問い詰めているのだ。
「あなた、自分の娘が死ぬかもしれないっていうのによく平気な顔をしていられるわね」
厳しい問い詰めにいい加減にして欲しいという表情で父親は憮然と答える。
「まず借金を返済するのが優先だ。メアリーはそのために犠牲になってくれたと思えばいい。あんたみたいな金持ちにはわからないだろうが」
そう言い終えないうちにアミーリアの平手打ちの音が鳴り響く。
「最低な人間。話す価値もない」
アミーリアは護衛の騎士に命じた。
「この男がどうやって借金を返済したのか調べあげなさい。おそらく裏でピエールが絡んでいるはず。怪しいと思われる人物は貴族だろうと捕らえて口を割らせなさい。平民用の牢に入れても構わない。あとの責任は私が持ちます」
幼少の頃から護衛している騎士たちですら、これほどの怒りをあらわにするアミーリアを見た事がなかった。
そしてアミーリアは低く凍りつくような声で父親に忠告する。
「ピエールから借金を帳消しにしてやるとでも言われてメアリーを売ったのなら、あなたも同罪よ。その首がいつまでも胴体についていると思わない事ね」
アミーリアのアイスブルーの鋭い眼光が父親に突き刺さる。
それは父親の背筋に悪寒を走らせるに十分すぎるほどの殺気がみなぎっていた。
☆☆☆
アルベールは隣街、ラドフォードの教会で勉学に励んでいた。
そこに凶報が舞い込んで来たのだ。
「メアリーが盗みの罪で捕まった? そんなバカな。あいつは盗みなんてやるような奴じゃない」
「かなり厳しい拷問にかけられているらしい。貴族たちがみんな口裏を合わせているのなら、平民はなす術がない。おそらく処刑が決まるだろう」
ラドフォードの教会神父にそう言われてアルベールは助けに向かおうとした。
「どこへ行くつもりだ? まさか助けに行こうというのではあるまいな」
「助けに行くに決まってます。あいつは幼馴染でずっと一緒に過ごして来たんです。無実の罪で処刑になんてさせません」
「お前が行ったとて貴族の証言は覆せぬ。無実であろうと貴族が有罪と言えば有罪になる。これが現実なのだ」
「何が貴族だ、ふざけるな。。」
アルベールが飛び出して行くのをラドフォード教会の神父はため息をつきながら見ているしかなかった。
「ロスメル領は貴族の横行が相変わらずのようだな。このラドフォードのようになるには時間が必要であろう」
ラドフォードの街では貴族と平民の立場は変わらないが、ラドフォード公爵の政策が行き届いており、貴族が平民に罪を着せるような犯罪が起こる事はない。
領主が違えば政策も当然違ってくる。
ロスメル領が変わるには領主が考え方を変えるか、領主が新しく変わるしかないのだ。
☆☆☆
「なぜこいつを貴族用の部屋に入れたんだ。アミーリア様のなさる事は俺にはさっぱり理解出来ん」
貴族用の牢に入れられたメアリーを見てピエールは今日で処刑を決めるつもりでいた。
「神父様、手はず通りに頼みますよ」
そう言ってピエールは牢から立ち去っていった。
牢番たちにあまり姿を見られるとまずいと感じたからだ。
そして立つことも出来ないメアリーの両腕を左右から2人の拷問係が掴んで尋問室に連れて行く。
しかし今日はいつものような拷問は行われなかった。
すでに気を失っていて話す事も出来ないと判断されたからだ。
「被告人メアリー・ウィルソン。汝はナヴァル伯爵の金貨20枚を金庫から盗み出した。
これに相違なければ沈黙せよ。違うというのであれば反論せよ」
気を失っているメアリーに神父の声は聞こえるはずもなく、当然答える事も出来ない。
「罪は確定した。メアリー・ウィルソンは貴族の金を盗んだ罪により処刑とする」
ピエールと神父の強引なやり方でメアリーの処刑が決まってしまったのだ。
気を失ったまま動かないメアリーに向かってピエールはほくそ笑む。
「せめてもの俺の慈悲だ。処刑はギロチンにしてやれ。平民は本来なら絞首刑のところを俺の身代わりになってくれたお礼に貴族と同じ名誉を与えてやろう」
ピエールはそう言って高笑いした。
これで証拠は隠滅した。
カジノの借金も返せて文句なしである。
「我ながら上手くいった。アミーリア様が出てきた時は焦ったが、あいつが処刑されちまえばこれ以上動かれまい」
「メアリーの処刑が決まったですって?」
護衛の騎士から報告を受けてアミーリアは苦悶の表情を浮かべる。
「処刑は本日正午にストーンエデン広場で行われるそうです」
今日の正午、そんなに早く決まるとは。。
アミーリアは相手の動きが予想より速い事に憤りを感じていた。
「ピエールが神父に急がせたのね。急いで馬車の用意を。こうなったら力ずくでメアリーを奪い取るわよ」
「なりません。すでに刑が確定した者を奪い取って助けたらお嬢様まで同罪になってしまいます」
「かまうものですか」
強引にストーンエデン広場に向かおうとするアミーリアを護衛の騎士たちが諌める。
「お嬢様はラドフォード家の跡取りで、ラドフォードの時期領主なのです。平民の少女1人のためにラドフォード家の名誉を傷つけてはなりません。あの少女はお諦め下さい」
「諦めるですって。。」
アミーリアは沸々と心の中が湧き立つような怒りに拳を握りしめた。
アミーリアは騎士たちの静止を振り切ろうとする。
「ストーンエデン広場に行くわよ。馬車を早く出しなさい」
「お嬢様。。」
「1人の人間を助けられないような家の名誉など要りません。お父様に私を廃嫡にするように伝えて下さい」
「そんな。。お嬢様、一体どうなされたのです? 平民の少女1人が処刑されてもお嬢様には何の関係もごさいません。どうか冷静になって下さい」
その言葉を聞き終えないうちにアミーリアは馬車に乗り込み、従者に走るよう命じた。
「お嬢様を追え。処刑を邪魔しないようお止めするのだ」
騎士たちも馬に乗ってアミーリアの馬車を追う。
彼はアミーリアの行動が理解出来ずにいた。
「一体どうなされたのだ。お嬢様のあの少女への執着は普通ではない。あの少女は何者なのだ。。」




