287 筆頭聖女選定会 三次審査 8
「ザビリア?」
小屋の外に出ていき、驚いて名前を呼ぶと、大きな翼を持った黒竜はふわりと私の前に舞い下りた。
それから、片方の翼を広げると、その翼で私を包み込む。
「やあ、フィーア。黒く美しき者として、フィーアを包み込むためにやってきたよ」
「えっ、私の話を聞いていたの!?」
ザビリアが口にしたのは、先ほど私が言ったのと同じ言葉だったため、驚いて目を丸くした。
ザビリアったら私の言葉を聞いてすぐに、実行しようと駆けつけてきたのかしら。
それは、なかなか悪戯心に溢れているわね。
私の隣では、クェンティン団長が感極まったように地面に跪く。
「ああ、また一段とお体が大きくなられたんじゃないか。目にするたびに尊さが増していくとは、さすが黒竜王様だ!」
ザビリアの周りでは騎士たちが右往左往しており、ザカリー団長は苦情を言いたいような顔をして私を睨み付けてきた。
えええ、そんな。ザビリアが勝手に飛んできたのだから、私のせいじゃないわよねと思ったところで、黒竜の翼が私の頬に触れる。
「ふふ、くすぐったいわ」
子どもだけあって悪戯好きなのねと笑い声を漏らすと、ザビリアが楽しそうにニヤリと笑った。
「悪戯心は半分だけだよ。あとの半分は、フィーアの守護者として、あなたに危険が及ばないようにするための行動さ」
「私に危険が及ぶ?」
首を傾げたところで、先ほどキマイラと対峙したことを思い出す。
「もしかしてキマイラと対決したことを言っているのかしら。これでも私は有能な騎士だから、怪我一つしなかったわ!」
私だって意外とやるのよと胸を張ると、ザビリアが呆れたように見つめてきた。
「フィーアが言っているのは、クェンティンが従魔にした白い魔物のこと? 違うよ。そんなお遊びの話ではなく、今ここにある危機の話だよ」
「今ここにある危機?」
それは何かしらと首を傾げると、ザビリアが顔を近付けてじっと私を見てきた。
「フィーア、『疑わしきは罰せず』というのは人間の世界のルールだよ。同じことを魔物相手にやったら、命がいくつあっても足りやしない。魔物は簡単に相手を騙すし汚い手を使うんだ」
そういう魔物もいるのでしょうねと頷くと、ザビリアがさらに言い募る。
「ましてや相手が魔人となったら、そもそも話をすべきではない。その口から出るのは己に都合のいい話ばかりで、真実と嘘が巧妙に織り交ぜられているから、何が真実で何が嘘かと考えることすら無意味だ」
いつもの調子で話を聞いていたところ、ザビリアの口からとんでもない単語が飛び出てきたので、私はビクリと体を強張らせた。
「ま、魔人ですって? そ、その単語はあまり使わない方がいいんじゃないかしら」
おかしいわね。
ザビリアは私が魔人を恐れているのを知っているから、滅多なことでは魔人の話をしないはずなのに、躊躇なく口にしたわよ。
ザビリアは『あれ?』といった様子で首を傾げた。
「そうか、フィーアが知っている魔人は、頭に角を生やした全部黒目の姿だけだったっけ。霊峰黒嶽でも人間に擬態している姿は目にしていなかったよね。だから、ピンときてないのか」
ザビリアったら、ぶつぶつと何を言っているのかしら。
お友達の言葉を上手く理解できずに立ち尽くしていると、ザビリアは物言いたげに私の後方を見つめた。
そこにはエキドナが立っていたので……ザビリアは彼女のことを言っているのかしら、と眉根を寄せる。
「……ザビリアはエキドナのことを危険だと言っているの?」
もしかして彼女は……魔人だと仄めかしているのかしら。
けれど、そんなはずはないだろう。
エキドナが被っているウィンプルにおかしな膨らみはないから、角が生えている様子はないし、目も人間のそれと同じなのだから。
魔人としての特徴を何一つ備えていない以上、彼女が魔人であるはずがない。
「そういえば先ほど、エキドナはおかしなことを言っていたわ。だから、ザビリアが警戒したのかしら。……でも、魔人は人間とは全然違うから、見た目ですぐに分かるのに」
ぼそりと独り言を呟くと、ザビリアが何かに納得したような表情を浮かべる。
「霊峰黒嶽で会った魔人について、カーティスは詳しく説明しなかったんだね。愚かだが理由は分かるよ。フィーアが昔の記憶を思い出すといけないから、止めておいたんだろう」
ザビリアは不満があるとばかりに尻尾をピシリと地面に打ちつけた。
その結果、辺り一面に砂埃が舞い上がり、騎士たちが大騒ぎする。
しかし、ザビリアは騎士たちを気にすることなく、何かに閃いたような顔をした。
「フィーアは第三次審査を途中で抜けたいんだよね? だったら、このまま僕がフィーアを攫っていくのはどう? それで一件落着だよ」
ザビリアの言葉を聞いて、私は過去に似たようなことがあったことを思い出す。
待って。ザビリアは私だけを連れて、この場を退去しようとしているわよ。
ごく稀に、ザビリアは私以外の人はどうでもいいような行動をすることがある。
そして、その場合は必ず、私に危険が迫っているのだ。
「ザビリア、……エキドナはそれほど危険なの?」
真剣な表情で尋ねると、あっさり肯定された。
「危険だね。この場には騎士団長が3人いるけど、誰一人エキドナとの戦い方を知らない。フィーアも……無理をして戦う相手じゃないよ」
私をエキドナに近付けまいとするザビリアの発言を聞いて肌が粟立つ。
ザビリアは私の自由を尊重してくれているから、よっぽどのことがない限り行動を制限しようとはしない。そのザビリアが口を出してきたのだから、よっぽどだということだ。
そのことに気付いた私は、皆を連れてこの場所をすぐに離れようと決意する。
その時、エキドナとスフィンが小屋の外に出てくると、感心したようにザビリアを見上げた。
「何て立派な黒竜かしら! こんなとんでもないものを召喚するなんて、さすがは深紅の髪の聖女様だわ。いえ、違ったわね。この場合も、300年前の大聖女と同じ赤を持つ聖女様、と表現すべきだったわ」
感心するエキドナに対して、スフィンは腰に手を当てると、咎めるような声を出した。
「フィーアは飛びぬけて美味しそうな匂いがするんだから、帰ったらダメよ!」
「……エキドナ、スフィン」
2人は危険かもしれないと身構えたうえで発言を聞くと、確かに過激なことを言っているわね。
どう判断すればいいのかしらと戸惑っていると、横からザビリアがぼそりと呟いた。
「この2人の名前が全てを物語っているよね」
「え?」
名前?
尋ねるように首を傾げると、ザビリアは意味あり気に私を見てくる。
「どちらも古の海洋王国の神話に出てくる母子の名前じゃないか。神話の中で、2人は罠を仕掛けて人間を捕らえる怪物の親子として描かれている。だから、自分たちになぞらえたんだろうね」
ザビリアはエキドナに視線をやると、無邪気な様子で首を傾げた。
「ほら、人間社会を習いたての者って、昔のカッコよさそうな神話に憧れて、そこから名前を取ってきたりするよね。その典型だよ」
いつも読んでいただきありがとうございます!
3点お知らせをさせてください!!!
ノベル最新刊発売、文庫新作発売、このラノご協力依頼になります。
【1】9/16(水)ノベル13巻が発売されます。
★以下、加筆しました!
〇魔法の鏡発見!
〇【SIDEクェンティン】新米母は可愛い雛に名前を付ける
〇【SIDE】アルテアガ帝国皇弟ブルー=サファイア「女神からの贈り物はやはりとんでもない代物だった」
〇【SIDE】アルテアガ帝国皇弟グリーン=エメラルド「それはそうなるよな」
〇【SIDE】アルテアガ帝国皇帝レッド=ルビー「もはや言葉も出ない」
★初版特典SS(初版のみ、別葉ではさみこんでもらうペーパーです)「フィーア、クェンティン団長の緊縛趣味疑惑を検証する」あり。
★書店特典SSについては、出版社の特設ページに掲載される予定です。
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【2】9/18(金)半妖の運命婚1巻が発売されます。
初の和風ロマンス、文庫本になります。すごく面白くできたと思うので、読んでいただければ嬉しいです!!!
【あらすじ】
「あやかしが人に化けたか」
藤の花の下で、人外のように美しい男性に、刃を向けられた紅草望。彼女はあやかしと契約し、皇都を守る六家の中の一家『紅家』の厄介者として蔑まれていた。家族に虐げられる彼女の前に現れた美しい男性は、彼女のことを半妖と呼び――。
「お嬢さん、僕の妻になるか?」
突然の求婚により彼女の生活は一変し、皇都の秘密を巡る大きな渦に巻き込まれていく。運命が巡り、絡み合う。極上の和風溺愛ファンタジー。
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【3】「このライトノベルがすごい!」(9/23までお一人様一回限り)
https://konorano2027.oriminart.com/
ただいま、「このライトノベルがすごい!」WEBアンケートが実施されています。
★転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す
を加えてもらえると嬉しいです。いよいよ10月からアニメがスタートしますので、作品が広まるお手伝いをしていただければ最高にありがたいです。
※作品一覧で「十夜」で検索すると、6作品出てくるので、そこから選べます。
どうぞよろしくお願いします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))








