天使かと思いました
「魔王様って外見に助けられてるところありますよね…」
「そうだな。かといって顔が整っているから許されるものでもないわけだが」
「え?何?」
奇行が減ってきたのはいいけど、ソファに寝転がってクッキー食べこぼしながら本読んでいいわけではないですよね。読書スピードは意識的に遅くしてるらしいけど、読み切ったら戻るのかなぁ、うーん、どっちがいいんだろう。魔王様って放っておくと急に「人体の限界を知りたい」とか言って雑技団みたいなことしだすからね、地味に心臓に悪いからやめてほしいよアレも。
「魔王様、成長したら精神も育ったりしません?年相応な感じに」
「はぁ?お前俺に7000歳のしわくちゃになれって言ってんの?」
「そ、そうではないですけど…」
普通長く生きてる人って落ち着くものじゃん、だけど魔王様はティーン引きずった若者って感じなんだよなぁ。あ、いやまぁ、長く生きてたら落ち着くっていうのは、あくまでファンタジー作品の話だから実際はこういう人もいるよって現実を見せられてるだけなんだけど。けどこう、ね、大人げないところを直すとか、子供っぽい拗ね方をしないとか外見年齢に伴って態度が変わるかもしれないじゃん。知らないけど。
「えっと、身体は21歳…なんですよね?」
「あぁ、あの時から成長止めてるからな」
「なんでですか?その頃まではちゃんと成長してたんですよね?」
「そこはほら、体力って20代から下り坂って言うじゃん」
「自分のステータスを見てから言え」
あの時の屈辱を忘れないため、とかじゃないのが魔王様だよなぁ。人の体力に合わせてくるのは神様の子供としてどうなのかと思わなくもないけど。カンストステータスで下りも上りもないでしょうが、呆れた顔の私達に魔王様は本を閉じて億劫そうに起き上がると頭をかく。行儀が悪い自覚はあるみたいだ。
「まー、遅かれ早かれ成長は止めてたと思うぜ?育とうと思えば育てるけど、人間って無理しても100年しか生きられないしさ」
「まぁ…たしかにそんなに生きてるご老人の身体って想像できませんね」
「それに老化って人体には自然な事だからな。視界狭くなったり力が落ちたりなんかはステータスでカバーできない上にスキルじゃ消せねーよ、問題解決に力割かないといけなくなる」
あれ、意外と真っ当な理由だった。だいぶびっくり。下り坂ってふざけて言ってたわけじゃないのか、へー。よくフィクションで老いには勝てんな…みたいなこと言う人いるけど、魔性にも適応されるのか。なんか不思議だ。魔王様の弱点は身体っていうのはそういうのも含まれるんだね。もっとも魔法でなんかすれば問題はないみたいなこと言ってるけど、今よりもマイナスになるのは間違いないわけで。ほとんど人の身体っていうのは不便なものなんだね、人間の私がいうのもアレだけど。
「なら逆に若返ったりとかしないんです?」
「は?時間は止められても過去には戻れないだろ」
「いや時間はそもそも止まらないんですよ」
「…維持と逆行は別物、ということが言いたいのか」
「あ、そうそう」
18の時に戻った方が身体のキレがいいんじゃないかなぁって、ほら、3年って言っても高校生と大学生じゃ体力意外と変わるもんなんだよね。学校の体育って馬鹿に出来ないもんなんだよなって、階段で息切れるようになって思ったもんだよ。
でも、言ってみたら反応が思ってたのと違う。成長止められる人が若返れないってどういうことなの。サリバンさんも意外そうな顔で目を丸くしてる、サリィさんはともかく珍しいな。要するにアンチエイジングは可能だけど完全な若返りは不可能ってことか、人体的にも間違ってない…いや違うだろ、7000年は美魔女もビックリだぞ。サリバンさんは一瞬考えるように片目を瞑ってから、小さく頷いた。
「その辺りは初めて聞いた」
「まぁ俺の老化に口出すやつなんていなかったからなぁ。それにお前は外見自由なわけだし」
「え、性別だけですよね?」
「いいや、俺は夢魔だからな。人格こそはリセット出来ないが外見は多少融通が利く」
周りが魔性揃いなんだからそうだよね、やたら気にする私が特殊ケースになるのは当然かも。
そんでもって、サリバンさんは魔王様と違って変幻自在なのだそう。幻体だからなのかな、もう慣れたけど性別が変わるよりそっちの方がまだ納得できるわ。一回なんで両性なのかって聞いたことあるけど「世界の半分は男で、もう半分が女だから」っていう納得しにくいこと言われたんだよね。一人で色々できる方が効率いいからってことなの?
サリバンさんは私達を見つめ返すと長めの前髪をかきあげてそのまま髪を空中に流す、するとサリバンの身体は一瞬で縮んでそこにいたのは完全に性別の判断がつかない子供。なんていうか、あれだ、天使。海外の美術館に展示されてる感じの彫刻がそのまま命を持った感じ。ゆっくり開かれた目は息が止まるくらいに美しくて、形が良すぎる唇から聞こえた声なんて頭が痺れちゃいそうで。なんか後光みたいなものが見える気もする。
「こんな風にもなれる」
「……ウワッ、ヒェッ、怖っ、怖い!美しすぎて怖い!」
「おぉ…でもサリバンの外見にケチ付けるやつなんていないだろ?特殊な好み持ってようとそこまで美しかったら洗脳みたいなもんだし」
「あぁ、実際に変わったことはない。俺のプライドにも関わるからな」
そういうとサリバンさんはまた元のサリバンさんに戻ってくれた。いや、さっきのインパクト強いけどこっちも信じられないくらい美しいわ。慣れてただけだわ、アミュレット無しでこのお方見たときの自分の反応想像も付きません。
そして、これにちょっとびっくりした反応するだけの魔王様って何なの?サリバンさんのプライドをギタギタにするだけあるな、もうちょっとそれこそ年相応になって反応するべきだよね。どうして行動だけが子供っぽいのか。
元に戻ったサリバンさんは少し意地の悪い、というか冷たい微笑みを浮かべながら足を組んだ。
「それに、好みじゃなかったはずと惑う姿も中々見ものだぞ」
「うっはー性格悪っ。前から思ってたけど夢魔って全員お前みたいな感じなの?」
「まさか。清楚系から遊び人と多数取り揃えている」
「バリエーション豊富なのもそれはそれで嫌なんですけども…」
「最期の夢なのだから、いい目は見せてやりたいだろう」
「そ、そうですか…」
サリバンさんいい性格してるけどそうじゃなきゃ長い間同居とかやってけないよな、この2人はやっぱりなるべくしてなったって感じ。ちょっかいを魔王様は嫌がるし、反応も当然のことなんだろうけどこの人なりの不器用なスキンシップのつもりなんだろう。伝わってないけど、きっとそれでいいんだろうな。案外照れ屋っぽいところなくもないしね、私はすっかりぬるくなってしまった紅茶を飲みつつ優しいんだか残酷なんだか分かりにくいサリバンさんに頷いたのでした。




