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「お互い命は大切だと思うんですよ」

「うん、まぁ、それはな。俺も死にたいと思ったことないから」

「そうね、だから知っておかなくてはいけないものってあるわ」

「サリィさんのいうとおりです、これは必要なことですよ」


真剣な表情でサリィさんと頷き合う、それを魔王様はいまいちピンときてない顔で見ていた。本人に関わる事なんだからもう少し興味持って聞いてほしいんだよな、無理だろうけど。ついグッと拳を握る、こんなの芝居とかじゃないと見ないとか思ってたけど意外と人間手に力入るものだよね。


「魔王様の嫌な事のリスト化!」

「お前は本当に俺を怒らせたいわけじゃないんだよな?」


私の決意に満ちた目を魔王様は半目で見返してくる、分かるよ、遠回しに怒りやすいって言われてるようなもんだし癇癪持ちの子供扱いだもん。でも魔王様の沸点が意外と低いってことを知ったらこういうこと考えて当然なんです、主に私の命の為に。そうじゃなくてもキレたら手付けられない強さなんだし、セーフなラインを知っておくのはお互いに大切なことだよね。地雷がそこかしこに埋まってるところを野原だと思って駆け抜けたくない、本当に。

で、そう考えた時魔王様の許せないポイントがわかりにくいことに気がついたんだよね。つい口が滑って魔王様のヤバさにキモいとか言っちゃうけど、むすっとされたり呆れられたりするくらいで怒ったりしない。ラヴィニアさんが来た時はあれ、一応キレてたと思うんだけど、どうなんだろう。


「魔王様、ディスりにはかなり寛大じゃないですか」

「ディ…何?」

「暴言程度じゃ怒らないって言いたいんじゃない?」

「あー、そりゃ耐性あるし。村にいた頃とかそれなりの頻度で気持ち悪いって言われたからな」

「えっ、そ、それは、どうしたんですか…?」

「足の小指折った」

「普通に怒ってんじゃん!!」


足の小指って陰湿じゃない?ぱっと見分かんないし、普通に痛いし。なんかあれじゃん、顔は目立つからボディにしなってやつじゃん。不良か、不良ですね。

それにしても魔王様に突っかかっていった子供、いや大人かもしれないけど勇気あるなぁ。この顔でかつ昔からこんなんなわけでしょ、よく立ち向かえたよ、寧ろ讃えたいよ。ボス戦にひのきのぼうで参加するようなものだよ、世間一般的にバカというのでしょうが私はそのファイトに敬意を表したい。魔王様はどこかしみじみとした顔をしながら紅茶を飲んで、息を吐き出した。そんな顔で語る内容でもないのにね。


「そういうのがあったから、まずはヒエラルキーの頂点に立つことから始めようと思ってたな」

「暴君ねえ、今より考えなしって言ったほうがいいのかしら」

「あのな、俺今でこそ7000年生きてるけどつかまり立ちしてた時期とかあるから」

「想像つかないですね…なんならオギャーとも言わなそうですよ」

「言ったわ、言わなきゃ死んでるだろ」


だって魔王様人間離れしてるんだもんなぁ、人間じゃないから当然だけど。それに身体はほぼ人間でも、魔性なら生後3日くらいで流暢に喋れそうじゃない。可愛げのある時期が極端に短そうっていうか、サンタの存在をそもそも信じてくれなさそうっていうか。この見た目のまま生まれましたって言われても全然信じられるよ。

魔王様は顎に手を当てて嫌なことについて考え始めていた、そんな真剣に悩むほど浮かばないんだろうか、ちょっとやなことでも全然カウントしてもらっていいんだけどな。そっちの方が私としても派生を考えやすいし。


「嫌なことなぁ…俺の子が殺されるのとか…んー、正直かなり嫌だけど、自然淘汰も必要だからある程度割り切ってはいる、かな」

「いや、あの、私、出来ないことはしませんよ?」

「あー…多分大丈夫だと思うけど、魔獣の肉ってヒトにとっては美味くて人気らしくてさ」

「怖っ!?なんてもの食べるんですかここの人!!」


魔獣って魔法使うんでしょ、え、それ食材にするのか、怖いなファンタジー世界。今まで気軽によってた肉屋さん急に怖くなってきた、普通の家畜の肉しか扱ってない筈だけども!震え上がる私に対して、魔王様はというと指を曲げたり伸ばしたりしてうんうん唸っている。あ、やっぱ我慢できないことから考えてるなこれ。


「あとはサリィとサリバンの夢渡り」

「あらまぁ、嫌だったの?」

「あったりまえだろーが!夢の世界でどんだけ力消費すると思ってんだ!忘れたころにやってくんな!懲りろ!しまいには消すからな!」

「えっと…サリィさん…?」

「あぁ、やだ!勘違いしないでちょうだい。ハナコだってご飯にドキドキしたりしないでしょ、私達もそんな感じよ?」

「ごはん」

「そう、ご飯」


夢渡りっていうのはまぁ…そういうことですね。ご飯扱いは間違いないけど、例えられた魔王様はぶすくれている。なんでも夢の世界は夢魔の独擅場らしくて、この魔王様でさえ力が1/10に押さえつけられちゃうんだって。単純にレベルが下がる方向からいっても99で、サリィさんのレベルが169って考えると普通に強い。そしてその状況でかなり疲れるとはいえ勝てる魔王様の強さはおして知るべしって感じ。どうやって勝ってるんだろう、普通に考えて負けるはずないのに負けてるんだからそりゃサリィさん相当悔しかったんだろうな。サリィさんに苦言を呈して、少しだけ不機嫌そうなまま魔王様は腕を組んだ。


「まぁ、俺もちゃーんと大人になりましたから?ちょっとのことなんかで爆発しませんよ」

「え、本当ですか?」

「うん。今母親殺されても寝れば平気になると思う」

「いや感情を殺せって言ってるわけじゃないんですよ!?」

「ほらー、ぶっちゃけ生き物いつか死ぬからさ」

「雑に達観したのね」

「つってもフィーに送るくらいはするかもだけど…俺が殺すわけじゃないし、なぁ?」

「そうね、ほんの一瞬は幸せな気持ちにはなれるだろうし広い目で見たら善行だわ」


仲のいいお母さんを殺されて怒らないのはそれはそれで問題があると思いますよ、7000年生きてれば割り切れるもんなのかなぁ。当時は18だったっていうし、変われば変わっちゃうものなんだね、少し残念って思うのは勝手が過ぎるかな。

まぁ、サリィさんと悪い顔で笑い合ってるの見るに全く堪えないわけじゃないと思うけども。フィーってあの欲望がやばい国でしょ、事実上死刑っていうか、ほぼ拷問なのでは。一撃で魔王様に燃やされたほうがまだ救いない?いや、考えるのはやめよう。遠い国の話だもんね、知らんぷり知らんぷり。


「あとは城壊されたらキレるけどやれるもんならやってみろとか思わなくもない」

「お城結界張ってますよね?どれくらい強いんですか?」

「んー…ガルムのブレスなら一発弾ける、かな」

「無敵ですね」

「一発だぞ?」

「ガルム様レベルの敵がいくらいると思ってるの」


サリィさんは呆れ顔で溜息をつく、本当その通りだと思います。ガルム様二億年生きてるドラゴンですよ、そのブレス一回無効に出来るならもう向かうところ敵なしでしょ。あー、思い返してみれば私その最強の結界潜り抜けてお城に来たんだっけ。殆ど奇跡だよね、流石異世界召喚。というか大好きなお子さんが作ってくれたお城にそこまでのガードかける魔王様って親バカだなぁ、それ以外にも理由あった気がするけど完全に子供の工作を守るお父さんでしょ。幼稚園の頃のクレヨンで描いた家族の似顔絵を大切にしまっておくタイプっていうか、いや、お城と比べちゃダメだね。


「…あぁ、そういえば戦いで負けそうになると急に顔キツくなるわよね、あなた」

「ムキになりやすいんですか?」

「というか戦闘狂よ」

「うるっさいな!オレはザコとは戦いたくないけど負けたいわけでもねえんだよ!」

「どの辺が大人になったんですか…」


正直ダンジョンで血溜まりデストロイ披露された時に結構戦闘行為好きな部類なんだなとは感じてたけども。ムキになるのは舐めプして勇者にやられたのが効いてるのかな、だったら最初から本気でやればいいのにと思うけど、そういうの理屈じゃないんだろうな。ゲームとかでも縛りプレイ好きな人いるし、魔王様もそういうタイプかもしれない。ちょっと生暖かい目で見てみると、魔王様はそっぽを向いた、子供か。


「大体楽なことして何が楽しいわけ?」

「そういうのは持つものの発言って言うんですよ」

「だって持つものだし。適度にヒヤヒヤしつつ勝利したいってのはおかしな話じゃないだろ」

「はいはい、そうですか」


このラスボスめ。普通の人間は楽な事を選びたがるものなんです、半神だからわかんないだろうけど。適当に相槌を打ちながら魔王様の気に触ることをもう一度思い返してみる、うん、私のようなモブ如きに侵せる領域ではない。


「…特別に変えるところ、ないですね」

「当たり前だろバカだな、俺嫌いな奴居候させるほど心広くないぞ」

「え?あっ、ありがとうございます…?」

「なんでそこ照れるんだ」

「や、だって…私に対しての感情何もないと思ってましたし…」

「わかるわ、その気持ち」

「サリィさん…!」

「お前ら………」


慈しむような顔でサリィさんが私の手を柔らかく握る、あぁ、なんかまた友情が深まった気がする。嬉しい。魔王様は軽くこめかみをおさえてるけどこの際無視です。重たい息を吐いて魔王様は気怠げに足を組んだ。


「お前が飽きたり嫌になるまでゆっくりのんびり適当に住んでりゃいいさ。そもそも、こんなちまちましい事聞くお前に俺を怒らせられるの?」

「…それも、そうですね。えっと、まだまだお世話になります」

「うん」


それでよろしいと魔王様は頷く、それだけのことがひどく嬉しかった。


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