誕生日でした
全然実感ないけど、秋は終わりに近づいてきてるらしい。この辺は冬あんまり冷え込まないって話だから夏ほど備えはしなくていいんだよね、ありがたいです。服代って結構バカにならないんですよ、本当。化粧はしなくていいからその分浮くんだけど、正直ファンデくらいはあると嬉しいなぁ、紫外線とかも地味に気になってはいる。
で、今更ながら季節の移ろいを知って、ふと思ったこと。
「魔王様の誕生日っていつなんですか?」
「え?何で?聞いてどうすんだ」
「そこはお祝いするに決まってるでしょ!」
「へーそんなもんか…一年ってぼーっとしてたらすぐだし発想がなかった」
「確かに魔王様からしたらそうかもしれませんけど、一度も経験ないんですか?」
「いや、あるにはあるけど魔王になってからは全くないから」
「あー…」
そうだよね、普通に生活してた時ならいざ知らず魔王ってよばれるようになったらなぁ。物欲もあんまりないし、足りないものもない魔王様をどう祝えっていうんだろう、創造神様は夢枕に立ったりしたかもしれないけど嬉しい日じゃないよね。しかもこの人7000年生きてるんでしょ、誕生日祝うっていう概念が消滅しても全然不思議じゃないよ、周りが行動しないと完全に忘れそう。
村にいた頃はというとお母さんがいつもより少しだけ奮発したご飯を食べさせてくれたんだって、なんかいい話、愛されてたんだなあ。
ちなみにサリィさんとサリバンさんは春の生まれらしい。ついでに言うと私は冬生まれなんだけど、クリスマスとお正月に挟まれた期間だったから物凄い損したよ。お年玉とクリスマスプレゼントが誕生日プレゼント一度で済まされるからね、憎らしいね、あの制度。休みだから友達にもなかなか祝われないしさぁ。あー、思い出しただけで悲しい。思い出に胸を痛めていると紅茶を飲みつつ魔王様はしれっと思い出を破壊した。
「もっとも、村にいた頃から飯食わなくてもいい身体だったから特別有り難みとか感じなかったけどな」
「ぶち壊さないでもらえます?で、結局いつなんですか」
「ん?…あぁ、一昨日?」
「待て、初耳だぞ」
「そりゃ言わねーよ。サリバンに誕生日なんて言ったらプレゼントは俺、とか言いかねないだろ」
「気色の悪い想像をするな、誰がやるか」
「魔王様、そういう発想は出来るんですね…」
サリバンさんも誕生日知らなかったとは、まぁ予想はしてたけど。ていうか魔王様ちょっと考えたよね、忘れかけてたのか。にしても恋愛ものが嫌いな魔王様がそんな頭が茹だったカップルみたいなイメージ持っていたのが面白すぎる…サリバンさんの生ゴミを見るような目が怖くて笑えないけど。いや、日頃の行いなのかな。普段どんな迫り方をなさって、あ、やめよ、やめやめ、この2人の夢の世界のファイトを想像してはいけない。
「ま、一年後覚えてたら祝ってくれ」
「何言ってんですか!それこそ2日くらい誤差です!今日お祝いしましょう!今日!」
「う、うん?」
どうでも良さげにひらひら手を振る魔王様にずずいっと顔を近づけると困惑しつつもオーケーされる、魔王様への必殺技、圧。あんまり使うと向こうも慣れそうだから乱用したくないんだけど、ここは譲れない。何故ならもう夕方だから、仕事終わって3人集まるってなるともう陽は落ちてる時間になるんだよ。しょうがないよね。
「具体的に俺は何をされたらいいんだ…?」
「祝われる側が気を遣わないでくださいよ…ケーキとか作りましょうか?」
「え?ハナコ作れんの?」
「バカにしないでください、言っときますけどこれでも女子ですよ。簡単なものなら……」
えっと、材料。小麦粉、バター、砂糖、卵、生クリームに、あとはトッピング用のフルーツでしょ、それを…あれ、何グラムだっけ。っていうか何で測ろう、お城に天秤くらいはあるよね。え、それで何を最初に入れて混ぜればいいんだっけ。ボウルに近いものはあるけど泡立て器…あとケーキ型……それからえっと、電子レンジ……。
あ、これ、無理。
こっちでも料理は簡単なの作ってますが本当に簡単なものだし、レシピないと不安だし、ケーキなんてグラムきっちりしないとやばいことになるし、何一つ準備が整いそうにない。アンナさんかヨハンさんに簡単にケーキ作れないか聞いとけばよかった、ダメだこれ。文明の利器よ、当たり前に享受しててごめんよ。
すすっと魔王様から離れて、私は遣る瀬無い気持ちのまま項垂れるように頭を下げた。多分さっき聞いてきたのはそういう意味の作れるかどうかだったんだろうね、なんか察した顔をしていらっしゃるもの。
「すみません………」
「あー、気にすんな。サリバン、普通ヒトってどういうことしてんの?」
「仕事の手伝いをしたり、プレゼントを贈ったり、特別なものを食べたり、あとは歌ったりと色々だな」
「はー、こっちでもそのへんは変わらないんですね」
こういう日本にいた時と変わらない価値観を見つけると嬉しくなるよね、ホッとするっていうか、懐かしくなるっていうか。
で、魔王様の好きなことっていうと楽しい戦闘と楽しい暇つぶしだよね。いきなり用意出来そうにないから早速選択肢減るなぁ、もっと早く聞いとけば良かった。歌なんて歌ったところで魔王様が喜ぶわけないし、あと私そこまで歌上手くない。ってなると今日はリラックスしてもらう方向で行くしかないのかな、まず誕生日に嫌なことってしたくないもんね。
「あ、じゃあ今日は魔王服着なくていい日とかどうですか?」
「えっ!?」
「えっ!?嫌ですか?!」
「ぜんっぜん!嫌じゃねーよ!えっ、ええっ、いいの…マジで…?」
「あの、服って強制されて着るものじゃないんですよ?」
マントを見ながら出した軽い提案はかなりいい勢いで食いつかれた。そんな感じでいいのか、めちゃくちゃ目が輝いてるじゃん。前も恥ずかしがってたしなぁ、なんだっけ、こういう他人の期待に応えないといけないなって思うやつ。ピグマリオン効果とか、ハロー効果とか?ちょっと違うかな。
なんとなく言い出したことだけど、思ったより嬉しそうなので着たい服着てください、って言ってみたら秒でシャツとズボン姿っていうラフな格好に変わった。どんな風に着替えたんだろうとか、何も見えなかったとはいえ女子の前で着替えないでほしいとか色々あるけど、今日はやめとこう。
「あー落ち着く」
「こんな安らかな顔の魔王様見るの初めてです」
「律儀というより、馬鹿だな」
魔王っぽい格好したところで一年のうちで他人に会うかどうかも微妙なのにね。そもそも体裁を気にする気があるなら言葉遣いから変えてほしさがある、一人称が「我」みたいになったりとか…似合わないわ、ダメだこれ。脳内の魔王らしい魔王様を頭を振って追い出す、当の本人は楽ちんスタイルにご機嫌で気が付いてもいないみたいだった。
「いいなこれ、よし、これから誕生日は魔王休みの日ってことにしよう」
「主旨が変わってきているが」
「いいの、好きなことして良い日なんだろ?」
「っていうか、いつも休んでよくないですか?そもそも働いてないんですし」
「それはなんか俺がすごい駄目な奴みたいに聞こえるからやめろ」
「違わないだろ」
コスプレしてる金持ちニートだもんなぁ。外出の時に着るだけで十分だと思わなくもないんだけど、貰ったものに弱いのかな、こう、勿体無い精神的な。いやお宝が雑に置かれてる感じ見るにその線は薄いか。
「えっと…それで、7001歳になったんですか?」
「いや…あー、えっと…7102歳、か?」
「おっふ…」
「なんだその顔。こんなもんだぞ魔性って」
「サリバンさんはおいくつなんですか?」
「俺もあまりまともに数えていないからな…3068とか…だったような」
「うん…なんていうか一年って誤差ですね」
「だから言ったろ。いちいち祝ってられないんだって」
「ボケ防止にはいいかもしれんぞ」
「は?俺まだ現役なんですけど」
うん、7000歳ぴったりってことはないよね、そりゃ。だって神話だもん。魔王様の歳ってそのままアルカディアの国の歴史に当てはまるから年号さえ覚えておけば覚えるのは楽らしい、今度ちょっと勉強しておこう。魔王様にアルカディアについては聞けないからね、サリバンさんでもいいけどなかなか2人っきりになることないしこれは自習しかなさそうだ。
言い合ってる2人を見ていたら魔王様のティーカップが空になってることに気が付いた。飲み物も必要ないだろうけど、今日の主役だしちょっとは何かしてあげたいね。
「魔王様。お茶淹れましょうか?」
「待て」
「はい?」
「今日は魔王休みの日だ」
「え、あ、はい。だからなんですか」
「魔王呼びやめろ。あの服着ないといけない気になってくるから」
「そんなオンオフ切り替えガチガチにします?」
魔王呼びをデリケートな事情じゃなくて服装の理由で断る人ってこの人くらいじゃないかな。ラフな格好になってるだけで言動1ミリも変わってないのに切り替える必要ありますかね、あるんだろうな。魔王様って雑なわりに細かいところ気にするところあるから。
それにしても魔王様呼び封じられるってことは本名でってことだよね。名前、名前かぁ。ちょっと照れくさいかも、なんか初対面の頃と比べて距離感も近付いてきたような気がし…。
名前?
「あの…非常に申し訳ないのですが」
「…大体想像付くけど、まぁ聞く」
「魔王様の名前ってなんでしたっけ……」
「ルキウスだよ!!やっぱ忘れてたな!?」
「ごめんなさい!だって魔王様の方が言いやすいんですもん!!」
魔王様に肩を掴まれて揺すられる。中々力強いんだけどめちゃくちゃ失礼だったのは私なので何一つ文句は言えない、勿論サリバンさんはそんな私達を見て頬肉を噛みつつ笑っていた。




