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北の大陸屈指の魔法都市、コール・ド・ジム。
そこは、街の街灯すら魔石で輝く、知性と神秘の都……のはずだった。
上半身裸で湯気を立てる三人の巨漢と、血生臭い熊の毛皮を引きずる包帯まみれの少女。
普通なら即座に憲兵に包囲されるところだが、流石は魔法の都。
「ほう……あの魔女、低レベルなのに三体もの『肉体強化型ゴーレム』を同時に制御しているのか。なんと高度な術式だ」
「いいえ、あれはきっと『筋肉への魔力転換』のフィールド実験ですよ。素晴らしい魔法ですね!」
街の人々の温かい(勘違いした)眼差し。
「おい、そこは『ナイスバルク』だろ!」「俺たちのこのカットが見えねぇのか、魔法使い共!」
毒づく三人を、私は薄ら笑いで宥めながらギルドへと向かった。
幸い、魔王の城に近いこの地では、腕の立つAランク冒険者は「兵器」として歓迎された。
「ギルマス、街で一番重い器具があるジムを教えてくれ!」
挨拶もそこそこにトレーニング施設へと走り去る三人と別れ、私はようやく一人、街をぶらつく時間を手に入れた。
(……杖、新調しようかな。今のは、この前のボス戦でヒビが入ったままだし……)
ふらりと立ち寄った魔道具屋。そこで、私は「それ」に出会ってしまった。
棚の隅、優雅な杖たちが並ぶ中で、一際禍々しく、鋭利な鉄釘が何本も突き刺さった**『異質の棒』**が鎮座していた。
「……あ、あの。店員さん。これ、何かの間違いで紛れ込んだ……釘バット、ですよね?」
「お客様、お目が高い! それは新進気鋭の職人が気の迷い……いえ、情熱で作り上げた逸品『ジェットバット』ですよ!」
店員が食い気味にプレゼンを始める。
「この魔法陣を見てください。ここから『加速魔法』が噴出し、杖を振る速度を極限まで高めるのです! 想像してください、高速の杖捌きで魔法をシュシュっと連射するあなたの姿を!」
「……でも、これ、釘。どう見ても釘が刺さって……」
「あぁ、勿体ない! 明日には別の武闘派魔女が買っちゃうかもしれませんよ? ラスト一本です!」
……気づけば、私は財布を空にして、その『加速魔法付き釘バット』を抱えて店を出ていた。
「(……いいのよ。加速魔法で、詠唱時間を短縮するために買ったんだから。釘は……そう、避雷針か何かの役割なのよ、きっと……)」
夕暮れの街。釘バットを肩に担ぎ、昨日より少しだけ逞しくなった足取りで歩く私の姿は、もはやどこからどう見ても「ゴッドハンズ」の一員だった。
——お父さん、お母さん。
私はついに、魔法の杖(物理)を手に入れました。
思考回路が彼らに染まっていくのを、止められそうにありません。
やっぱり、私は選択を間違えたのかもしれません。




