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「「「おおおぉぉ! ナイスバット!!」」」
宿屋の部屋で、三人の野太い声がシンクロした。
「ついに豆苗も物理の真理に目覚めたか! いやぁ嬉しい、俺は今、広背筋が震えるほど感動してるぞ!」
「ち、違うの! これは加速魔法で杖捌きを速くして、魔法をシュシュっと、こう……連射するための補助具なのっ!」
全員で(当然のように)スクワットをしながらの夜会。私の必死の弁明は、スクワットの風切り音にかき消されていった。
翌朝。私たちは街の近くの洞窟へ、寒冷地に棲む『白オーク』殲滅に向かった。
「せいっ!」
「筋肉!」
「バルクが足りんぞ!」
三人は相変わらず、オークたちを「内臓が出ない程度のミンチ」へと変えて突き進む。
私も負けじと新調した『ジェットバット』を振るうが——。
「ひぎゃあああ!? 止まらない、止まらないよ、これぇぇ!!」
加速魔法の出力がデタラメすぎて、杖を振るたびに身体ごと持っていかれる。呪文の軌跡を描くどころか、自分が独楽のように回転する始末だ。
(チクショウ、あの店員……! 今度会ったらこのバットで頭カチ割ってやる……っ!)
「筋トレが足りないぞ、豆苗! 体幹を鍛えろ!」
「腕立て100回追加だな!」
「プロテインも倍だ。飲み干せ!」
そんな修行(戦闘)の最中、奥から現れたのは巨大な『白オークキング』。
「おうおう、やっと骨のある奴のお出ましだ!」
「ウォームアップは終了ですね?」
三人が一斉に激突するが、キングのタフネスは桁違いだった。
「ナイスバルク!」
「腹筋6LDK!」
「大腿四頭筋が叫んでるぜ!」
ボディビル会場のような掛け声と共に乱打戦が繰り広げられるが、キングの巨大な棍棒の一振りが、ついに三人の巨漢を吹き飛ばした。
「くそっ……俺たちのバルクが、押し負けただと……!?」
膝をつく三人。そして、キングの凶悪な眼光が、後ろでバットを抱えて震える私を捉えた。
(え? 嘘……来る、来る来る来る!!)
迫り来る巨大な死。
私は生への執着だけで、目を瞑り、加速魔法を全開にして『杖』を真横に振り抜いた。
ガキィィィィィンッ!!!
加速魔法の暴力的な推進力。私の全魔力と筋肉で叩き込んだフルスイングが、キングの「最も鍛えていない箇所」——剥き出しの脛にクリーンヒットした。
「ギャオオオオオォォォォン!!?」
白オークキングが、涙目になってその場でのたうち回る。
「え? 私、魔法……やったの?」
「よくやったぞ、モヤシちゃん!! 今だ、畳み掛けろ!!」
隙を逃さず、三人のマッチョが復帰。脛を押さえて悶絶するキングに対し、容赦のない「各々の禍々しい鈍器」による一斉放火が始まった。
やがて、アドニスさんの金砕棒が眉間に深々と突き刺さり、キングはピクリとも動かなくなった。
「やったぞーーー!!」
歓喜の声と共に、三人の巨大な掌が私の背中を叩く。
(……痛い。確実にヒビが入った。……でも、吹き飛ばない?私、飛ばされてない……っ!)
「宝箱も豪華だぜ! 今夜は宴会だ!」
——お父さん、お母さん。
私は今日、初めて魔物の骨を砕く感触を、この腕で覚えてしまいました。
そして、私の骨密度は確実に彼らに近づいています。
やっぱり、私は選択を間違えたのかもしれません……。




