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北の大都市『コール・ド・ジム』を目前にして、私たちは猛吹雪の白魔に閉じ込められた。
「火の精霊よ……『ファイヤーボール』!」
私が必死に魔法で火を灯すと、隣ではすでに「シュッシュッ」と高速で木を擦り合わせて火を起こした三人が、不思議そうな顔で私を見ていた。
「ん? どうした豆苗。杖を振るより広背筋を使ったほうが、火力の調整がしやすいぞ?」
……その無駄なドヤ顔、一発殴らせてほしい。
しかし、外は氷点下。薪も尽きかけ、洞窟内の温度は下がり続ける。
「……おい、このままじゃ……カタボっちまうよ……っ!」
ガストンさんが半泣きで高速スクワットを始め、アドニスさんも「筋肉が、しぼむ……」と苦悶の表情で腕立て伏せに励む。
「まずいですねぇ。マッチョはアイドリング(基礎代謝)だけで膨大なカロリーを消費します。この寒さでエネルギーが枯渇すれば、三日と持たずに干からびて死ぬでしょう。おぉ女神よ、我らのバルクをお守りください……!」
腹筋をしながら祈るバジルさん。
(そのカロリー消費をやめろ筋肉ダルマ共!!)
心の中で叫ぶが、私の意識も朦朧としてきた。彼らは自分の服を脱ぎ、私を暖めるために焚き火にくべてくれているのだ。
(……ごめん。筋肉ダルマなんて言ってごめんなさい……私、もう、眠いや……)
その時だった。洞窟の入り口に、空気を切り裂くような殺気が満ちた。
現れたのは、山の覇者『マッドマッチョベア』
咆哮一つで熟練猟師を失神させる、筋肉の鎧を纏った凶悪な捕食者だ。
だが、不運だったのは……この熊の方だった。
そこには、飢えと寒さで理性を失いかけた、三人の「カタボりかけの野獣」がいたのだから。
数分後。
「うめぇ……! 肉だ、脂だ、カロリーだぁぁ!!」
洞窟内には、ジューシーに焼ける肉の香りが充満していた。
「ほら豆苗も食え! 熊の心臓だ! 筋繊維が太くて最高だぞ!」
「……お、おえっ……」
「さらに、この溶けた良質な脂に特製プロテインパウダーを混ぜたものも飲みなさい、ティミ嬢。血管を熱いタンパク質が駆け巡るぞ」
バジルさんが差し出す、ドロドロとした謎の液体。
「……お、おえっ……」
「寒かったろう? これを着ているといい」
アドニスさんが優しく肩にかけてくれたのは、さっきまで咆哮を上げていた熊の、剥ぎたてで温かい(そして猛烈に血生臭い)毛皮だった。
「……っ、うぇっ、くさっ! 湿ってるし血の匂いしかしない! おえぇぇっ!」
「あぁ、モヤシちゃんには少しワイルドすぎたか」
アドニスが爽やかに笑い、私の周りに二人が陣取る。
「おいで、真ん中に座ってね?全員、フォーメーション・ウォームアップ開始!!」
「おう!!」
三人が一斉に、私の至近距離で「バーピージャンプ」を開始した。
地面を叩く振動。三人の肉体から立ち上る、サウナのような凄まじい熱気。
そして、逃げ場のない汗と獣の匂い。
熱い。暑苦しい。けれど、確かに温かい。
私はその異様な熱気の中で、意識を遠のかせた……。
——お父さん、お母さん。
三人のマッチョに囲まれて暖を取る私は、今、世界で一番「男臭い」場所にいます。
やっぱり、私は選択を間違えたのかもしれません。




