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「ほら豆苗! 足が止まってるぞ! 荷物(全員分)の重さを楽しめ!」
「ひ、ひぃぃ……っ! 無理、重い、肩が……!」
「嘘を言うな。お前の僧帽筋は今、喜びの歌を歌っている!」
毎日が地獄の合宿。けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
彼らは寝床を離し、私が着替える時や…その…トイレの時は「スクワット1000回の掛け声」で周囲の音を遮断してくれる。これほど真剣に、そして紳士的に(筋肉基準ですが)私と向き合ってくれた人は今までいなかった。
そんな私たちが立ち寄った、雪混じりの小さな村でのこと。
「冒険者さん、これを見てくだされ。これぞ勇者のみが抜けるという伝説の剣……」
村長が指差したのは、岩に深々と刺さった古びた剣だった。
「おいおい、勇者っつったらうちのパーティーじゃ『豆苗』だろ?」
「へ!? 私!? 無理無理、魔法使いが剣なんて!」
「いいから触ってみろって。筋肉の神様がお前を呼んでるぜ?」
促されるまま、私は恐る恐る柄に手をかけた。
(……ん? 重いけど、これ、魔法の封印じゃない。ただ……物理的に噛み合ってるだけ?)
「アドニスさん。これ、たぶん抜けますよ。勇者じゃなくても」
「ふぅん、モヤシちゃんが言うならやってみよっか?」
キラリと輝く、人たらしの爽やかスマイル。
(その顔、本当に反則! その下がオーガみたいな筋肉じゃなければ惚れてたかもしれないのに!)
アドニスさんが軽く柄を握る。
ミキッ、ボキィッ!!
「あっ。」
「ひ、ひいいぃぃ!? 伝説の、伝説の宝剣の柄がァァ!?」
村人の絶叫を無視し、アドニスさんは「よっ」と短く息を吐いて引き抜いた。
ズルリ、と岩から抜けたそれは、ただの鉄の塊にしか見えなかった。
「なるほど、200kgくらいか。重心が偏っててダンベルとしては三流だな。返すよ」
ドォォォォォン!!
アドニスさんが適当に突き刺し直すと、剣はひしゃげてひん曲がり、台座の岩ごと粉砕して、もはや前衛芸術のような無残なオブジェへと成り果てた。
「……あ、あ……あう……」
泡を吹いて倒れる村長。静まり返る村。
「……なぁ、アドニス。これ、やばくねぇか?」
ガストンが冷や汗を流しながら呟く。
「はい。村人たちの目が据わってます。あ、あのおばあちゃん、干し草用のフォークを持ちましたよ。……全員、退却ーーーっ!!」とバジルさんの掛け声で、私はガストンさんに「出荷される子豚」のように摘み上げられ、全速力で村を脱出した。
丘の向こうからは、「聖剣返せー!」「罰当たりがぁー!」という村人たちの怨嗟の声がいつまでも響いていた。
——お父さん、お母さん。
伝説の聖剣は、彼らにとってはバランスの悪い鉄クズでしかありませんでした。
そして私はついに、聖剣を破壊した大罪人の一味です。
やっぱり、私の選択は間違っていたようです……。




