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「勝利と大胸筋に、乾杯!!」
ギルド酒場に響き渡る野太い声。私の前には、ドロドロとした「アルコール入り高タンパク・プロテイン」が並んでいる。
昼の頚椎捻挫と背骨への衝撃で、今の私は全身包帯と添木だらけ。
「……ねぇ、あそこにミイラがいない?」
「バカ言え、あれは昼にAランク様とダンジョンを制覇した新人の魔女だぞ」
「物理でボスを砕いたっていう……。あぁ、だから全身ボロボロなんだな。修羅かよ……」
周囲のヒソヒソ声が、勘違いに拍車をかける。
私は、椅子すら撤去された(仲間と認められた証)宴席で、空気椅子すらできずにガタガタと震えながら立っていた。
「聞いたぞ豆苗! 最後は杖でボスの核を粉砕したそうじゃないか! すげぇパンチ力だ!」
「いや、あれは転んだ勢いで、魔法で固めてたからで……」
「謙遜するなティミ嬢! 才能に胡坐をかかず、さらに上を目指す。その姿勢こそが『ゴッドハンズ』だ!」と酔っ払ったバジルさんが叫ぶ
アドニスさんのの無駄に熱い眼差しが私を射抜く。
「ねぇモヤシちゃん……君のその細い腕。もっと太くなれば、杖の遠心力も増すと思わないかい?」
「それは……まぁ、振るスピードは上がる、かもしれませんけど……」
「よし! ならば今日から『人間ダンベル』だ! おい、そこの大きな剣士! ちょっと身体を貸せ!」
「はぁ!? 何をっ、離せ、放せよ筋肉ダルマ! 俺は冒険者だぞ、物じゃな……うわあああああ!?」
ガストンが悲鳴を上げる中堅剣士を軽々と片手で持ち上げ、上下に振り始める。
「いい負荷だ! ほらバジル、お前もあっちの盾持ちを借りてこい!」
「心得た!女神様の前に、全人類はダンベルなのだ!」
「やめろぉ!」「無礼な!」「剣を……俺の自慢の魔剣がああぁぁ!!」
怒り狂った剣士が抜いた魔剣は、バジルさんの手で飴細工のようにぐにゃりと折りたたまれた。
吐き散らす者、泣き叫ぶ者、逃げ出す者。阿鼻叫喚の酒場で、受付嬢のカレンさんだけが、般若のような形相でペンを折っていた。
翌朝。
ギルドの門には、まだインクも乾ききっていない大きな張り紙が躍っていた。
『ゴッドハンズ(及び付随するモヤシ魔女)、無期限の出禁』
「……ちっ、器の小さぇギルドだ。せっかくいい汗流してたのによ」
「しゃあねぇ! また次の街に行くしかねぇか。世界は広い、もっといい重さの冒険者がいるはずだぜ!」
ガストンさんとバジルさんが荷物をまとめ、アドニスさんが眩しい朝日を背に、私の肩(脱臼中)を叩く。
「準備はいいか、モヤシちゃん! 新たな地平へ、筋肉の旅に出発だ!」
「あ……はい……。……さようなら、私の故郷……」
カレンさんが遠くで「二度と戻ってこないでー!」とハンカチ(というか雑巾)を激しく振っているのが見えた。
——お父さん、お母さん。
私はついに、生まれた街を追い出されました。
次はどんな筋肉が待っているのでしょうか。
……やっぱり、私の選択は間違っていたようです。




