5-10rep
大乱闘マッスル最前線! 白タオル決死隊の皆様の健闘っぷりは、私の想像より1rep上でした!
さしものマッスルモンスター達も一撃で吹き飛ばす事も出来ず、ましてや同じ人間同士で本気で殴るわけにもいかず、素晴らしい時間稼ぎとなっています!
「ふぅ……流石はモヤシちゃんの差し向けたマッチョ達だ、大きいね! 良い負荷だ!」
アドニスさんが薄っすらと爽やかな汗を滲ませながら、二人のマッチョを軽々と投げ飛ばしています。
ガストンさんとバジルさんも、少し離れたところで大混戦の渦中にいます。今がチャンスです!
「ア……アドニスさん! お覚悟です!」
「……やっと来たね、モヤシちゃん?」
「気づいて……いましたか?」
「うーんそうだね、少しくらい離れていても、君の筋肉の鼓動は聞き分けられるからね」
「……だったら……だったら何ですぐに探して助けてくれなかったんですかぁぁぁ!!」
「そ、それは……」
「皆さん酷いです……! 自分達はもう完成されたマッチョだからって、まだ全然マッチョじゃない私にも同じレベルを求めて……そんなの横暴です! 傲慢です!」
「も、モヤシちゃん、それは違うよ……!」
「何が違うんですか!? ちゃんと答えてください! 教えてください! 私達……仲間なんですよね!?」
「腹斜筋がリアス式ぃぃーーー!」
近くで白タオル決死隊の隊員が、凄まじい絶叫と共に断末魔をあげました。
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!今いいところでしょ!!!」
「……いいよ! おいでティミド! ここでちゃんと話し合おう! ぶつかり合おう! ――筋肉で!」
アドニスさんが、大きな胸筋を張って両腕を広げ、全てを受け止める構えで立ち塞がります。
「うぉおおおお! 最近! 旅の初めに比べてぇ! 私の! 扱いが! ぞんざい過ぎませんかーーーー! 魔王を倒した後くらいからぁぁぁあああ!」
「『加速魔法全開――フルアクセル一閃ッ!』」
わたしはジェットバットにバチバチと黒い雷を纏わせ、全力の加速魔法でバットを振り抜き、アドニスさんの無防備な脛を打ち抜きました!
避けようと思えば、私のフルスイングなんて簡単に避けられるはずなのに……アドニスさんは、一歩も避けませんでした。
ガッキーンッッ!!
まるで鋼鉄をフルスイングで殴ったような、凄まじい金属音が戦場に響き渡ります。
流石のアドニスさんも珍しく目を見開き、唇をギュッと締めて、脚を少し震わせています。
……しかし、耐え切られた私のジェットバットの方が、乾いた音を立ててボキリと折れてしまいました……。
「あ、あ、あ、あ……うわぁぁぁぁん!!」
ポロポロと涙が止まりません! 言いたい事は山ほどあるのに!
旅の途中からずっと握りしめていた、最初は騙されて買った思い出の杖……色んな魔物や悪い人や、あの魔王の脛すら砕いて来た私の相棒が……!
「「「(オロオロ……)」」」
私の大泣きに、マッスルモンスター達はおろおろ、マッスル騎士団もおろおろ、オーガ達もおろおろするばかりです。
「豆苗……」
「ティミ嬢……」
ガストンさんとバジルさんも私を慰めようと寄ってきますが、コイツらこういう時だけ急に弱気になるので、オロオロと手持ち無沙汰に揺れるばかりです。
「ティミド……ごめん。僕たちは同じパーティー『ゴッドハンズ』の仲間として、もう君を一人前のマッチョとして対等に扱おうって、それで……」
アドニスさんが私を『モヤシちゃん』と呼ばない時は、本気のトーンです。
「ご、ごめんよ……? 君はまだまだ、大切に育てるべき幼い成長株だもんね……?」
アドニスさんが、細心の注意を払って私を押し潰さないように、そっと優しく抱きしめてくれました。……あたたかくて、ほのかに甘いプロテインの優しい匂い。
「へへ、これで一件落着だな?」
ガストンさんが鼻の下をこすりながら笑います。
「左様、心が通じ合いましたな! やはり最後は本音と肉体で語り合うのが肝要ですな!」
バジルさんが、綺麗に場を締めようと頷いています。
「……だったら……」
「「「え?」」」
三匹の筋肉獣が、同時に間ぬけた変な声をあげました。
「だったら最初からそう言ってくださぁぁぁい!!」
アドニスさんの胸の中で、私は体をしなやかに翻して素早い動きで背後に回り込み、バックを取ります! マッチョはその大き過ぎる筋肉のせいで自分の背中に手が届かないのです!
そして、折れたジェットバットの柄を、アドニスさんの首元に力任せに当てがい――
「これが! 『フルアクセル一閃-絞-』だァァァァッシャァぁあア!!」
折れたグリップに残っていた加速魔法陣が激しく輝き、アドニスさんの太い頸動脈を容赦なく締め上げます!
「コヒュッ……ゴフッ!?」
あのアドニスさんが口と鼻から白濁したプロテインを吹き出し、白目を剥いて大地へと崩れ落ちました。
「「ひっ……!?」」
それを見たガストンさんとバジルさんが、ガクガクと震えながら抱き合って怯えています。
わたしは折れたバットの柄を、勝ち鬨をあげるように天高く掲げました!
「聖女様! ナイスですぞーーー!」
「「「ティーミード! ティーミード! マッソォ! 」」」
マッスル騎士団達の地鳴りのような歓声は、いつまでも戦場に鳴り響いていました。
……ちなみに、巻き込まれたオーガ達は、混乱に乗じてとっくにテントを引き払い、山奥へと帰っていたそうです。
お父さん、お母さん。
わたしは、わたしたちは、話し合いの仕方を、根本から間違えてしまったのかもしれません。




