5-7rep
一方、その頃――。
オーガのフェスティバル会場では、夕刻を迎えて祭りが更なる盛り上がりを見せていました!
アドニスさんの超絶腕力で腕相撲を征して皆の負けを有耶無耶にしつつ、大いにオーガのフェスティバルを楽しみ、オーガ達と意気投合して肩を組み、プロテイン入りのアルコールを痛飲! お互いがお互いをウェイトにして篝火を囲んで筋肉を追い込み、熱い夜が更けていったそうです。
◇
そして、翌朝――。
「アドニス! 大変だ! 豆苗がどこにも居ないぞ!?」
「ま、まさかモヤシちゃんが!? 昨日の昼までは足元に居たのに……!?」
「皆さん焦ってはいけません。ここは心を落ち着けて、考えるのではなく、筋肉で『感じる』のですぞ? む、むむむ……きっと怖くなって、荷車で丸くなって寝ているのかもしれませんな?」
「あぁそうか!モヤシちゃんに悪いことをしちゃったなぁ、怖がっていたもんね、僕たちの悪い癖だね」
「よーし! 豆苗を叩き起こして、朝の合同トレーニングと洒落こもうぜ!」
「賛成だね」
「体に染み渡る暖かいプロテインスープを用意してあげましょうかね」
などと、呑気で的外れな事をほざきながら、三人はオーガのフェスティバル会場の入り口へと向かいます。
「な……」
そこで彼らが見たものは――。
地平線をギチギチに埋め尽くす、女神教が誇る対異教徒戦闘集団――『マッスル騎士団』の、堂々たる行軍でした。
(……そう、私ティミドは、不本意ながら女神教の『聖女様』なのです! 言ってみれば、女神教の大司祭であるバジルさんよりも立場的にずっと偉いのです! ふん!)
そんな私がリフターシティに命がけで到着し(大聖堂の屋根に猛スピードで墜落して手足を派手に骨折しつつ)、涙ながらに訴えたのです。
「バジル大司祭と聖騎士のアドニス、ガストンの両名が、凶悪なオーガの群れに捕まりました! すぐに全軍を派遣してください! 女神様も『やれ』とおっしゃっています!」
……と、渾身の悲劇のヒロイン劇を打てば――そりゃあ、こうなりますよね!!
包帯ぐるぐる巻きの重傷を負った私は、今、豪奢な輿に乗せられて運ばれてきています。全身が熱を持つほどの激痛ですが……私の目には黄金のハイライトが完全に復活していました。
「音声拡大魔法――『ラウド』!」
私は大音量で檄を戦場に響かせます。
「全軍、突撃ーーー!! 殺すな! 限界まで痛めつけて女神様の慈悲を示しなさい!!」
「「「応!!」」」
全兵士が一斉にパームプッシュの構えを取り、手に手に巨大なバーベルやダンベルを握り締め、怒涛の突撃を敢行します!
「待って! 豆苗!ティミ嬢!モヤシちゃん! タイム! タイム! ストップだよ! 落ち着いて!!」
あまりの事態に、慌てふためく三人のマッスルモンスター達。
マッスル騎士団の将軍が、輿の横で私に恭しく問いかけます。
「聖女様! バジル大司祭と聖騎士の二人が『タイム』と叫んでおりますが……どのようなマッチョな対応をいたしましょうか?」
私は将軍を見下ろし、冷酷に答えました。
「彼等はすでに、恐ろしいオーガに深く魅入られています。騙されてはいけません! 心を鬼にして、たっぷりと懲らしめてあげなさい」
「はっ! かしこまりました! 全軍そのまま突撃ぃぃ! 大司祭様と聖騎士様達は敵に完全に魅入られている! 気を抜かずに全力で女神様の慈悲を示せーーー!」
「「「応!!」」」
(ふふふ……実に頼もしい狂信者達です!)
「お、おいアドニス……? 豆苗、かなりキレてないか……?」
「うん、そうだね……今回も本気で怒ってるね……」
「左様……また少し、アナボリックな状況に舞い上がってしまいましたな。大いに反省です……」
三人は顔を見合わせ、一瞬だけシュンとした顔を見せました。
「「「――だけど!!」」」
「こんな最高にパンプ出来る相手も、中々居ないぜ!!」
ガストンさんが、ニッコリ笑って拳をゴツンと突き合わせます。
「ただ、一方的に殴られるのは僕の趣味じゃないからね!」
アドニスさんが爽やかな笑顔のまま、体に渦巻く凄まじい闘気を跳ね上げます。
「オーガの皆さん! さぁ戦ですぞ! 起きて起きてー!」
バジルさんが、二日酔いで寝ているオーガ達の腹筋を殴って叩き起こします。
こうして――。
聖女ティミド率いる『女神教マッスル騎士団』と、三人のマッスルモンスター率いる『オーガ軍団』の、歴史に残る大決戦の火蓋が切って落とされたのでした!
お父さん、お母さん。
わたしは戦の『引き際』というものを、根本から間違えてしまったのかもしれません!




