5-5rep
「いやぁ失敬失敬、女神様のパンプがありますように」
破壊してしまったテントの前で、バジルさんが何事もなかったかのようにオーガ達へ女神教流の謝罪パームプッシュをしています。
(……それ、逆に神経を逆撫でしていませんか!? あ、オーガも笑顔でパームプッシュで応えてる……女神教徒だったんですか……)
「いやはや、参りましたなぁー」
数カ所噛みついたままの肉食魚を体のあちこちにぶら下げて、バジルさんが戻ってきました。
(……痛くないのかな?)
そんな事はさておき、ガストンさんは他の屋台で低糖質高タンパクな食べ物を求めてどこかへ消え、アドニスさんは一人で腕相撲の素振りをしています。……本当は仲が悪いんじゃないかと真剣に心配になりますね、はい。
「ヘッ、人間ナンテコンナモノカ? 誰カ骨ノアルヤツハイナイノカ?」
腕相撲オーガのわかりやすい挑発です。
(ダメですアドニスさん、心を落ち着けて! あなたならきっと勝てます……♡ おっと、危ない! 即座に首から下を見つめます。クールダウンです。ふぅ……)
「骨のあるやつだって? 居るさ、ココに!」
アドニスさんが、爽やかに言い放ちます!
そう……私を指さして……私を……
「っておーい!? こんの筋肉ダルマイケメンクソゴーレム!!?」
無理に決まってるでしょうが! ガストンさんもバジルさんも「あっ」という間に吹き飛ばしたオーガ相手に、私が勝てるわけがなーーい! なんなら3人がかりで挑んだって、私だけプロネーションタウンまで逆戻りするくらい遠くへ吹き飛びますわ!!!
……はぁ、はぁ、叫び過ぎて疲れました。
「はは、モヤシちゃん、そんな事を言わずにね? ほら、やってみよう? 大丈夫! 仇は取ってあげるからね!」
「キラン!」と白い歯で爽やかに微笑まれても、答えは絶対にNOです!
「あ、待ってください! 勝手に台まで運ばないでください! オーガも気を遣ってやりやすいように、わざわざ低い位置でハンデとして小指だけ出して、指切りげんまんみたいに構えなくて良いですからぁぁ!」
「それじゃあ、いくよ〜」
アドニスさんの眩しい笑顔が猛烈にムカつきます。後でプロテインの中身を全部下剤に変えてやります。……私が生きて帰れたら!
そんな極限状態の時、小声でオーガさんが話しかけてきたのです。
「オイ? 豆、オマエ、タイヘンソウダナ?」
「え?」
「手加減シテヤルカラ、ウマク、アワセロ」
(え? オーガ……いや、オーガさん……なんて優しいの……!?)
「レディーーー」
「本気デヤレ、ウマク、ヤル」
「は、はいっ!」
「ゴーーー!」
私はグッと全力を込めて、オーガさん……いや、オーガ様の小指を全力で握り、押し込みます!
「うぉぉーーー! ヤルナ! 豆のクセニ!」
「頑張れモヤシちゃん!」
「いっけー豆苗! 仇をうってくれー!」
「ティミ嬢! 広背筋の声を聞くのですよ!」
外野の脳筋たちがうるさく叫びます。
(お、オーガさん……? こ、これ、ここからどう演技すれば……?)
(……スマン、無策ダッタ)
(は??)と思った瞬間でした。
ガンッ! ドンッ! バイーン!!
思いっきり叩きつけられた私は、地面を激しくバウンドして、フェスティバル会場の入り口方面に向かって弾け飛んでいきました。
(……もう、叫ぶ気力すらありゃしませんぜ……)
さて、地面に激突するまではあと10秒ほどです。この短い間に、奴らへの最悪の仕返しを考えねばなりません。
……って、そんな暇あるかいぃぃぃぃ!!
「重力軽減魔法――『フェザー』!!」
フワッと体が優しい風に包まれ、私はギリギリのところでゆっくりと地上に着地しました。
……ふぅ……さて。
この敵性亜人達と、そこに紛れ込んでいる一番性質の悪い知り合いの敵性亜人達(アドニス達)の……お祭りへの『復讐』の時間です。
お父さん、お母さん。
わたしは人を許す慈悲の心を、どこかに置き忘れてきてしまったのかもしれません。




