4-14rep 潜入!オークフィジーク大会
「どどど、どうしよう……! このままじゃ、二人が唐揚げになっちゃいますよぉぉ!!」
あまりの事態に、私の思考回路は完全にショート寸前です。
「落ち着くんだ、モヤシちゃん!」
アドニスさんがパニックに陥る私を落ち着かせようと、両肩をガシッと掴んでくれました。……その凄まじい握力で、私の鎖骨にメキメキッと小気味よいヒビが入りました。……たぶん、あのアドニスさんも少し焦っている証拠です。痛い。
「そうだぜ豆苗! ここは落ち着いて考えるんだ!」
ガストンさんが、励ますように私の背中をバシッと叩きます。……衝撃で肩甲骨の位置が派手にズレました。ガストンさんは焦っているとかじゃなく、単に力加減を知らないいつも通りの脳筋です。痛い。
「ですな、しっかりと前を向いて状況を分析しましょう! ティミ嬢!」
バジルさんが、痛みで俯く私の頭をガシッと掴んで、無理やり前を向かせます。……ゴキッという素敵な音がして、長年の悩みだったストレートネックが奇跡的に治った気がしますが、急激な骨の移動により髄液が漏れて、脊髄がヘルニアになったと思います。痛い。
全身を駆け巡る激痛に悶え、地面をのたうち回る私。……そんな私を見下ろしながら、三人の獣はうずうずと、隠しきれない熱視線をオークフィジーク会場へと向けています。……目的、忘れてませんか?
私は吐血と痙攣に必死に抗いながら、命がけで皆を制します。
「ダメ……ガハッ! みんな、考え直して……ゲフッ! 今、皆さんのマッスルなバルクでパンプしたら……ゲホッゲホッ! あのオーク達を刺激して……トンくんとチンちゃんが即座に素揚げになっちゃう……ガハッ!」
私の命がけの制止も虚しく、会場内の熱気はすでに最高潮。扉の隙間から、地響きのような歓声と、おぞましい掛け声が漏れ聞こえてきます。
「ナイスバルク!」
「大きいよ! 6番!」
「3番の腹筋の溝の深さ、崖かよ!」
そこで突然、バジルさんに天啓が降りました。
「はっ! 閃いたーーーー!」
目をカッと開いて叫ぶバジルさん。
(このクソ坊主がぁ!!)
会場が一瞬静まり返り、コチラを一斉に向く寸前、私は最後の命を燃やした神速のスライディングで扉を閉めることに成功しました。本当に心臓が止まるかと思いました。
「いやぁ、失敬失敬」
と、バジルさんは全く反省の色もなく、むしろ誇らしげに大胸筋を膨らませます。
「で、何を思いついたんだい? バジル」
「そうだぜ? もったいぶらずに教えろよ!」
「ふふふ……このバジル・サルトに秘策ありですぞ!」
自信満々にそう言うと、バジルさんは腰の皮袋から、先ほど捕獲したあの『EAAスライム』を取り出しました。
(……え? ま、まさか……?!)
その禍々しい緑色の物体を見て、アドニスさんとガストンさんも何かを察したようです。
「左様……! この緑のスライムを全身に塗りたくり、肌の色を偽装! あのオークフィジーク大会にオークのフリをして参加し、圧倒的な筋肉で優勝すればいいのです!」
バジルさんは、とんでもない作戦を嬉々として説明しながら、すでに服を脱ぎ捨て、ブーメランパンツ一丁でスライムを全身に塗りたくり始めました。……仕事が速い。
「よぉし、僕達も!」
「おうよ! 筋肉の祭典だぜ!」
二人もそれに続いて、迷いなく脱ぎ始めます。
……狭い通路で、三人の半裸のマッスルモンスターが、緑色の粘液を全身に塗りたくりあっている……。お父さん、お母さん。これは、この世の地獄のような光景です。
「さぁ、これでどこからどう見ても、仕上がってるオークにしか見えないね?」
全身がテカテカの緑色になったアドニスさん達が、「どうかな? 似合ってる? イケる?」という、非常に判断に困る期待に満ちた視線を送ってきます。
……私は目のハイライトを完全に消して、もう好きにして、という無言の視線を返します。……突っ込む気力もありません。
「よし、それじゃあ、僕達のバルクを魔物達に見せつけてやろう! 野郎ども、腹筋固めて……突撃だ!」
「「「応!!」」」
(……目的、絶対忘れてる……)
「モヤシちゃんは、僕達が気を引いている間に、隙を見て二人の救出を!」
「え? あ? は、はい……? ……で、出来るだけ、頑張ります……!」
お父さん、お母さん。
前代未聞の『筋肉潜入救出作戦』の始まりです。
きっとまた、何かが起こるでしょうが、子供達の命のために、私は最善の選択肢を選ぶつもりです。
ですが……その前に、私の精神と命が、この不条理な現実に擦り潰されそうです。




