4-12rep 一人一つだ、二つは勘弁してやる
もう、腕が……!
「モヤシちゃん! 押してダメなら引いてみろだよ!」
(はっ? そうです! 私のようなひ弱な魔女が、本気で目の前の暴力とステゴロで張り合うなんて意味がわかりません!)
私は膝の力を抜き、神速のスクワットでキングコボルベロスの力を後方に受け流します!
受け流されたコボルベロスは後方の三人にぶつかりましたが、アドニスさんに首根っこを掴まれ、再び私と相対させられました。
「やめろ! 人間! は! な! せ!」
ジタバタと暴れるコボルベロスですが、イケメンゴーレムの前腕と圧倒的握力を振りほどくことなど出来るはずもなく、そのまま地面へと降ろされます。
「こうなったら貴様らの目の前で、あの娘の腑を喰らってやる! 後悔しても遅いからな!」
三人は笑顔で、顎をクイッと私の方に向けました。
(皆さん、キングコボルベロスをこれ以上刺激しないでください! 死です! 確実な死が私に向かってくるんですから!)
コボルベロスの爪の連撃を受け止め続ける私……あれ? なぜか受け止めきれてる?三位一体の攻撃は……?
よく見ると、キングコボルベロスの真ん中の頭以外は喋っていないし、目も虚ろです。
「作り物みたい……」
「ギクッ!?」
(え? 今ギクって言った? 言いましたよね? もしかしてその首は……見かけ倒し? 王冠的な飾りもの……?)
「うるさいぞ小娘! だまれ! だまれ!」
コボルベロスの大振りなフックをスクワットで避けながら、私はジェットバットに魔力を流し、加速魔法を起動させて脛にフルスイングを打ち込みます!
しかし、そこにコボルベロスは居ませんでした。
「後ろだ!」
ひっ!?と飛び退いたものの、背中に熱い痛みが走ります。
「豆苗!!」
ガストンさんが走り出そうとするのを、二人が止めます。
「くっ……頑張れ豆苗! お前なら勝てるぞ!」
「そ、そんなこと言われても! 魔法を唱える時間も無いし! 速すぎて攻撃は当たらないし! どうすれば――!」
背中からは、暖かい血がドクドクと流れています。
爪についた私の血を啜る、キングコボルベロス。
お父さん、お母さん。私の人生で3本の指に入るほどのピンチです!
ですが……乙女の背中に傷をつけた、この駄犬だけは絶対に許せません。
何か熱い……いや、どす黒い感情が、私の視界を赤く染めていきます。
(あーあ、もう嫌になっちゃった……成長させる為なのはわかるけど、子供の救出優先って言ってるのに助けてくれない脳筋三バカに、私の血を勝手に啜るキャンキャン吠えるだけの駄犬……そうだ……全員……潰そう……玉を!)
私は全員を睨みつけます。
全身の毛が逆立っています。
「「「「ひっ!?」」」」
三人と一匹が、ほぼ同時に股間を押さえました。
「一人ずつだ……一人一つずつ潰す……」
「モヤシちゃん、落ち着いて!」
「豆苗! 落ち着け!」
「ティミ嬢! いけません! それだけはー!」
「加速魔法――アクセル全開!!」
私はジェットバットの加速魔法陣に全魔力を込め、踵を軸に回転を始めました。
コマのように高速での回転です。
遠心力が最大になった瞬間――。
「フルアクセル一閃!-投-だあああああ!!」
超高速の回転から放たれる釘バット!
そのグリップの裏にも隠されていた加速魔法陣が光り輝き、魔物の動体視力をもってしても反応が出来ない、音を超えた速さでジェットバットはキングコボルベロスの股間へと突き刺さりました!
ズドン!!
「――っ、ギャッ!?」
悲鳴すらも遅れるほどの、光速の一投。
キングコボルベロスは血の泡を吐きながら絶命しました。
痛みすらも感じる暇が無かったのが口惜しいです……。
ゆっくりとキングコボルベロスの股間からバットを引き抜きます。
潰れた肉と内臓がくっついてくる嫌な感触がします。
ビュッと血振るいをして、首だけをギリギリと回して三人を見つめます。
「さぁ、次は誰かな……かな?」
「「「ひっ!?」」」
「立候補しないの? 正義の筋肉はどこにいったのかな……かな?」
「「「ひっ!?」」」
「じゃあ、私が決めるね……あっ」
バタン!
限界を超えた魔力切れと高速回転の反動により、私の意識は深い闇へと消えました。
お父さん、お母さん。私は玉を潰す順番を、根本的に間違えたのかもしれません。




