4-5rep 荒野に散るは筋肉の華!
「み……水……っ」
太陽が容赦なく照りつける不毛の荒野。
そこをあてもなくさすらう、大きな筋肉の塊が三体と、ひょろひょろのモヤシが一本。
「三、三人とも……! なんかこう、マッスルな力で水源とかわからないの!? ほら! あれ! ゴールドジィムシティでやった『マッスル・インスピレーション』で!!」
「モヤシちゃん……あれは建物の中の対象を見つける為の、場当たり的な技だから無理だよ……。あぁ、今は水抜きのタイミングじゃないのに……クレアチンも水も抜けていく……」
こんなにゲッソリとして弱々しいアドニスさんを見るのは初めてです。
「と、豆苗……俺はもう……ダメだ……。せめて最後に……もう一度……ベンチプレスしたかったぜっ……」
ドサッ!!
「が、ガストンさーーーん!?」
遂にあのタフネスの化身・ガストンさんが倒れました!
声も出なくなったアドニスさんが、無言でガストンさんの脚を掴むと、そのままズルズルと地面を引きずり始めます。
一方、バジルさんは手を胸の前で静かに合わせたまま、何かをボソボソと呟いていました。耳を澄ましてみると――
「……ガストンの魂よ、女神の元で、永遠に……」
「クソ坊主!その不吉なお祈りをやめろ!!」
「はっ!? あまりにもカタボリック(筋肉分解)な極限状況につい、自分の脊柱起立筋の事を考えていました。申し訳ない」
「もうっ! ガストンさんはそんな簡単にくたばらないでしょ!?」
「その通りだ、モヤシちゃん。この通り、僕が次の街まで引きずるさ……。バジル、次の街までどれくらいかな?」
「そうですな……ふむふむ、ふむふむふむ」
バジルさんが、空の星や周囲の地形を見つめて現在地を把握し始めました。
「ふむ。なるほど……ここの周囲40キロメートル四方には、街どころか村落すらありませんな!」
ドサッ!!
「アドニスさぁぁぁん!?」
あまりの絶望的な事実に、アドニスさんまでバタリと倒れ込みました!
「起きて! 起きてよアドニスさん! あなたまで倒れたらガストンさんを運べないよぉぉ!」
「大丈夫ですよ、ティミ嬢。私めが二人を担ぎましょう……ふんぬっ!!」
バジルさんが倒れている二人をまとめて担ぎ上げ――
ドサッ!!
「バジルさんまでーーーっ!?」
遂に、遂に最後の砦だったバジルさんまで力尽きて倒れてしまいました!
そ、そんな……! 皆、普段から筋トレばっかりして脂肪の蓄えも殆どないし、平常時ですら基礎代謝とカロリー消費がえぐいから、こんな事態に耐えられないんだ……!
(……三人は、『お前が聖女って呼ばれるのを恥ずかしがり過ぎて、食糧も買わずに勢いで街を出たからだろ』とは口が裂けても言えずに、そのまま深い闇の中へと落ちていったのでした。)
「あ、あ、あ……私達、ここで野垂れ死ぬんだ……ここで……ひぐっ、えぐっ……」
怖くて、悔しくて、涙が止まりません。
もう体内に残っている水分なんて無いと思っていたのですが、目からポロポロと涙が溢れ出します。
その時、奇跡が起こりました。
私の目からこぼれ落ちた一滴の涙が、地面で重なり合って倒れている三人の顔に命の滴のように命中したのです。
「うっ……」
「ぐっ……」
「はっ……」
「え? 皆!? 意識が……!?」
息も絶え絶えの三人は、最後の力を振り絞り、無骨な棍棒のような太い指で、必死に地面へメッセージを殴り書きました。
(だ、ダイイングメッセージ……!? ごくり)
地面に刻まれた、血の滲むような文字――
『 まほう みず 』
「あっ…………てへっ!」
自分が魔法使いだってことを完全に忘れてました!!
お父さん、お母さん。
私は……魔法の使い所を、数日前から根本的に間違えていたようです。
「水の精霊よ、力を貸して……アクアファウンテン!!!」
からからの荒野に、恵みの水がちょろちょろと湧きました。




