3-13rep マッスル・ハレーション
「うぉおおおおお!! 加速魔法全開! フルアクセル一閃!!」
ガキィィィンッ!!!!
「っつぅ〜〜〜……っ!?」
手が痺れました。はい……巨木の魔物に釘バットを力任せに振って何になると言うのでしょうか?
自分がひ弱な魔法使いなのをすっかり忘れて、肉体言語に頼った結果がこれです。
そのままトレントの触手に足を絡め取られて逆さ吊りにされ、ジェットバットもポロリと落としてしまい、今は下着が見えないように必死でローブの裾を抑えるので手一杯です。
頼みのマッスルモンスター達は、相変わらずぐるぐるな目でトレントの根っこや岩と戯れています。
(そんな……私たちの旅はここで終わるの……!? いやだよ、そんな……皆で魔王も倒してここまで来たのに……っ!?)
「頭を使え、ティミド! 私! 今は筋肉じゃなくて、この脳細胞を燃やせ!」
えーと、うーんと、えーと……逆さ吊りで頭に血が昇って……? 下がって……?
あーーもうめんどくさい! 全員燃やしてやる! まとめてだ! 覚悟しろトレントにマッスルモンスターども!
「火の精霊よ、私に力を貸して……!」
私の指先に小さな炎が宿ります。
「喰らえぇぇ! ファイアストーム! Lv1!!」
吹き荒れる火の嵐……いや、火の微風。
それでも、乾燥した周囲の草木を燃やし尽くすには充分すぎる威力でした。
「おや? なにやら熱いですな?」
「そうだね? この野外ジムはサウナも兼ねているのかな?」
「おう! 汗を沢山かけるぜ!」
バカ達はちょっとした山火事の中でも平然と筋トレを続けています。
しかし、トレントは違いました。周りの草木が激しく燃え上がり、自分を包み込もうとする炎に恐怖して、私を力任せに放り投げました!
ゴロゴロっと地面を転がり、パッと華麗に立ち上がる私! 10点満点です!
ジェットバットを拾い上げ、雷魔法をまとわせてから――。
「目を覚ましてーー!!」
バチン!「あう!」
バチン!「いで!」
バチン!「うお!」
三人のケツを全力でしばいて回りました。
トレントよりは柔らかいけど硬くて硬くて、また手が痺れました。
「はっ……僕たちは一体何を……!?」
「くっそぉ! 魅惑的なトレーニンググッズに目を奪われて、魔物の罠にはまっちまったなんて……情けないぜ!」
「ティミ嬢がいなければ全滅でしたな……!」
「ありがとう、モヤシちゃん!」
「流石は俺たちの豆苗だぜ!」
「ティミ嬢、女神様のパンプがありますように!」
「それ、モヤシちゃんを胴上げだ!」
「へへ……恥ずかしいよ……皆、無事で良かった……って、やめて! 高い! 高過ぎるーーー! っていうか山火事! 火事です!!」
三人が胴上げをやめ、周囲を見回します。
「皆、マッスルなパンプで火を消すんだ!」
「ってか、豆苗の水魔法で良いんじゃねぇの?」
「もう魔力切れで……その……『水の精霊よ、力を貸して……ウォーターバレット!』……チョロッ
指先から情けない水滴が垂れただけでした。
「うおおお! まずいぞ!? 踏んで消せるレベルじゃねぇ!」
「こうなったら……皆、あれをやるぞ!」
「「おう!」」
「え? あれって……?」
三人は示し合わせたかのように、寸分の狂いもない息の合った動きで超高速バーピー運動を始めました。
みるみるうちに三人の皮膚から凄まじい熱気と汗が噴き出してきます。
「今だ! それっ!」
三人が全身の汗を周囲へ撒き散らすように、豪快なマッスルポーズをバシッと決めました!
「「「マッスル・ハレーション!!!」」」
なんということでしょう。
三人の肉体から噴き出す膨大な汗が野原全体を覆い、七色の虹をかけ、上空に暗雲を作り出し、大粒の雨となって降り注ぎ始めたのです!
正直、開いた口が塞がりません。
私はなけなしの魔力を振り絞って『シールド』を張り、頭上から降り注ぐ男臭い汗の雨から必死で身を護りました。
みるみるうちに鎮火されていく野火。
やりきりスッキリした顔の三人。
ハイライトが完全に消え失せた私の目。
お父さん、お母さん。
私は今日……『筋肉は魔法すら凌駕する』という絶望的な真理を知りました。
私は……火の消し方の選択肢を、初期消火から間違えたのかもしれません。




