3-12 甘い罠にはご用心
女神様の激痛整体で回復した私達は、一週間分の水と食糧を買い込み(当然ブルガリアンスクワットで支払いを済ませ)、私は相変わらず荷車の重りとして乗せられて街道を進みます。
生きて帰れたら……もし、生きて帰れたら、絶対に違う港から船に乗りたいです。
リフターシティまでは、街道を真っ直ぐ五日くらいの予定です。
代わりばんこに荷車を引くみんなと、それに揺られる私。なんだかいつもの私達らしくて、凄く心が落ち着きます。
揺れに任せてのんびりとお昼寝をしていると、急に荷車がピタリと止まりました。
「え? え? どうしたの? 敵襲!?」
私は釘バットの形をした魔法の杖『ジェットバット』をガッシリと構えて起き上がりました!
そこで目にしたのは――。
「きゃっほーい!」と無邪気に走り出し、ダンベルやバーベルを嬉々として持ち上げる筋肉の獣達の姿でした。
「え? え? なにごと……!?」
よく見ると、大きな木の下に沢山の種類の筋トレグッズが乱雑に散らばっていて、木の幹には手書きの看板で『フリーウェイトご自由にどうぞ』と書かれていました。
いやいや、いくら脳筋が多いこの世界とはいえ、そんなわけがありません!
「ほら、モヤシちゃんもおいで! 一緒にトラップバーで遊ぼうよ?」
「豆苗! このイージーバーすげえぞ! 根本が長くて何キロでも重くできるぞ!? 早く来いよ!」
「ティミ嬢、ここは最高ですよ! ほら、スミスマシンまで完備の野良ジムとは、素晴らしい物が出来ていますね! ほら、一緒にシュラッグで分厚い僧帽筋を作りましょう! 安全ですよ?」
三人が狂ったような笑顔で、私を手招きして呼びます。
何かがおかしい。私の危機管理能力がビンビンに警鐘を鳴らしています。
「スキャニング(解析)!」
私は指で丸を作り、その空間に魔力を流して覗き込むように目に当てました。
「うぇっ!? やっぱり……罠だよ!!」
私にはハッキリと見えました。木の根を一生懸命に引き上げているアドニスさん達、そしてそこから吸い上げられていく皆の『生気』が。
その大きな木は、魔物『トレント』でした。トレントの触手のような細い枝が、いつの間にか皆の首にじわじわと巻きついていきます!
「まっずい! 皆逃げて! それはトレントの罠ですよぉぉ!」
「何言ってるんだいモヤシちゃん? こんな良い野外ジムはないよ?」
「然り、ティミ嬢は最近サボり気味ですな?」
「豆苗! あんまりサボるとカタボっちまうぞー?」
ダメです、三人はトレントの発する幻覚の花粉によって、目がぐるぐるになっています!
「ちっくしょう、あの脳筋ども!! 精神攻撃に弱すぎだよ!どうしようどうしよう!? 炎魔法で焼き尽くす? マッスルモンスターごと!? いやいや、生木は燃えにくいし……あぁどうしようどうしよう! でも、私が皆を助けなきゃ!」
ジェットバットを握る手にぐっと力が入ります。
バットに組み込まれた加速魔法陣が、蒼青と光り輝き始めました。
「ティミド・マッソォ! ジェットバット! 行きます!!」
お父さん、お母さん。
私は、戦う相手の選択肢を……ランクからして完全に間違えたのかもしれません!




