3-8rep 恐怖の港町ブルガリアンポートタウン
それからは、たまにシーサーペントやムキムギルマン達の襲撃がありましたが、マッソォクラーケンに比べたら微々たるバルクの彼等は、三人のマッスルモンスターや屈強な船乗り達の敵ではありませんでした。
私は火属性の魔法使いなので、役には立ちませんでした………私は雷魔法なんて使えません……使えません。
スクワットをしながらゾットマンカールをやらされつつ、今日八度目の嘘を塗り固めていたところ、甲板から威勢の良い声が聞こえてきました。
「大陸だー! 港が見えたぞー!」
ついに、やっとこの長い船旅も終わりです。帰りもまたこれに乗ると思うと心底ゲンナリしますが、どこか少しだけ寂しい気もします。
「ここが、南方大陸……? 暑い……」
船を降りた瞬間、ねっとりとした熱気が全身を包み込みました。ガストンさんの作ってくれたノースリーブな魔女用ローブが無かったら、暑くて今頃干物になっていたと思います。
「そう、ここが僕らの生まれ育った南方大陸の北端――港町ブルガリアンポートタウンだよ! ほら、街行く人の大腿四頭筋がパンプしているだろ?」
「……本当だ……」
アドニスさんに言われて見渡せば、この街の人たちのプロポーション、特に大腿四頭筋のパンプっぷりは、老若男女問わずそれはそれは恐ろしいものでした。
「え? え? まさか名前の通り、ブルガリアンスクワットか何かを皆が……?」
「そうだぜ豆苗! この街では全てがブルガリアンスクワットで成り立っているんだぜ?」
「へ? んなバカな……」
と思いながら周りを見回すと、目の前で信じられない光景が繰り広げられていました。
「はいよ! オレンジを十個だね? 十回ってとこかね? おまけで十二回だよ!」
「ありがとうおばちゃん! せいっ! せいっ! せいっ!」
買い物の代金がブルガリアンスクワットオオオオオ!?
どうなってるんですかこの街は!? 私の目のハイライトが一瞬でスッと薄くなっていきます。
「とりあえず宿に行くとしましょうか?」
と、バジルさんが言いました。
「そうだな! 一ヶ月の船旅は流石に飽きたぜ! たまには揺れない大地の上でガッチリとトレーニングしたいぜぇ!」
ガストンさんはまだまだトレーニングをし足りないみたいです。
「うん、まずは宿を見つけて、ゆっくりとハムストリングスを伸ばそうか?」
「「「賛成!」」」
――じゃなかったです。私は宿で普通にベッドに倒れ込みたいだけです。
そうして辿り着いた宿の受付で、愛想の良い女将さんが私たちを見比べました。
「はいよ、マッチョ三名に、お子さんが一名ね」
「ちょっとちょっと! 私はこれでも一人前のレディです! ちょっと栄養失調で背が伸びなかっただけで、これからもっと大人のミステリアスで妖艶な魔女になるんです! ふふん!」
子供扱いされたのが悔しくて、私は胸を張って鼻を鳴らしました。
すると、なぜか周囲の三人が引きつったような顔で私を見てきます。
「モヤシちゃん……良いのかい?」
「豆苗? 大丈夫か……?」
「ティミ嬢、無理はいけませんよ……?」
「へ?」
受付の女将さんは、あらあらと優しく微笑みました。
「あら、ごめなさーい。そうよね? 立派なレディですもんね? じゃあ――二泊で、一人5000回です」
「「あーーーー忘れてたーーー!!!!」
容赦ない「大人料金」の提示!!
振り返ると、三人の方はもう各々好きな重りを担いで、軽快にブルガリアンスクワットを始めようとしています。
「で、出ましょう! 今すぐにこの街を!!」
「キャンセルは半分の2500回、おまけして2600回でいいよぉ〜」
「いやーーーーーーーーっ!!」
お父さん、お母さん。
私は、泊まる宿の選択肢を完全に間違えたのかもしれません。
そして……明日の私は、絶対に自力で立てないと思います。




