3-7rep トレーニーは頭に酸素回ってないので算数をよく間違えます
幸い私の魔力はショボいので……すぐに魔力切れが起こり、電撃は止まりました。
船の上では、たくさんの黒焦げになった人たちの呻き声がそこかしこから聞こえてきます。
私は咄嗟に叫びました。
「く、くそー! この魔物め、雷魔法まで使うなんてーっ!?」
アフロヘアになってしまったアドニスさんとバジルさんは、「それは流石に無理があるよ?」という顔でじっとこっちを見てきました。ですが次の瞬間、バジルさんが自分の身体を触りながら首を捻りました。
「むむ? 身体を走る電流によって、筋肉のコリがほぐれたと思いませんか?」
「そうだね。まさかモヤシちゃんの――」
「クラーケンのせいです!!」
「――クラーケンの電撃によって筋肉がマッサージされて、身体が羽のように軽いよ!」
アドニスさんが驚きの表情を見せます。驚きで珍しく糸目が開いていました。やっぱり首から上は超イケメンです。首から上は!
「それでは、参りましょうか?」
バジルさんがニヤリと笑いながら、太い腕を回します。
「だね!」
アドニスさんの爽やかな笑顔が弾けました。
「「「よいしょぉおぉおおお!!」」」
二人はそれぞれ一本ずつクラーケンの巨大な触腕をガッシリと掴み上げ――。
「「「ああああああああああ!!」」」
地鳴りのような雄叫びを上げながら、息の揃った動きでマッソォクラーケンを力任せに海中から引き揚げました!
「それでは、頼みますぞ!」
バジルさんが巨大なモリを構え、アドニスさんに担がれます。
「任された! それじゃあ……バジル砲、発射ぁぁぁ!」
アドニスさんの僧帽筋と広背筋が異様なほどに盛り上がり、バジルさんをクラーケン目掛けて槍投げの如く豪快に射出しました!
「このモリを支える前腕に……女神の加護をおおおおおおおおおお!!」
超スピードで発射されたバジルさんごと、巨大なモリがクラーケンの目と目の間にある弱点へと深々と突き刺さりました! バジルさんまでもが半分埋まっています!
巨大なマッソォクラーケンは目をバッテンにすると、そのまま静かに海中へと没していきました。
◇
その後、二人が力任せに引きちぎった触腕を豪快に焼いて、船上で盛大な祝勝パーティーが開かれました!
本当は南方大陸に運ぶはずだった売り物の樽酒が開けられ、香ばしく焼いたイカの足を贅沢におつまみにします。
「ティミ嬢、お手柄でしたよ! たんとお上がりなさい!」
「モヤシちゃん、ナイスバルクだったよ!」
「へへへ、クラーケンが自分の雷魔法で勝手に自爆してくれて助かりましたよぉ〜」
(嘘は最後まで突き通してこそ『事実』になるのです)
香ばしいイカ焼きに舌鼓を打ちながら宴を楽しんでいた私ですが……ふと、胸の奥に小さな違和感が引っかかりました。
(……あれ? 何か……誰かを忘れているような……?)
三人で旅に出て……アドニスさん、バジルさん、私……。
あれ? パーティーって最初から三人でしたっけ?
お父さん、お母さん。
私はあの猛烈な感電のせいで記憶力を失い、正しく数を数えられなくなったのかもしれません。
――なお、置き去りにされたガストンさんは、翌朝、凄まじい水飛沫を上げながらバタフライで船に追いつきました。




