3-5rep 海の悪魔
船旅は順調に進み、一週間も経つ頃には私は船酔いを克服し、すっかり『海の女』の目をしていました。
言っておきますが、私は魔法使いです。
この船、『フライングゾットマン号』の舳先にある、なぜか前腕がパンプし過ぎている船首像の上で、私たちは皆で縦に並んで仲良く背の順でゾットマンカールをしていました。
すると突然、グラリと船が大きく揺れて私が落ちそうになり間一髪、バジルさんが指一本で私のローブの襟に引っ掛けて引き戻してくれました。
(……久しぶりに、スローモーションでデビルズプレスをしているおばあちゃんが見えました……)
ですが、船は不気味に揺れ続け、ついに船足もピタリと止まってしまいました。
岩礁にでも乗り上げたのかな?と振り返ると、そこは地獄でした。
「クラーケンだぁぁぁ! しかもマッチョのーー! 助けてぇぇぇ!」
船員たちの絶叫が大海原に響き渡ります。
海面からぬらりと現れたのは、巨大なイカ……いや、一本一本の触手がバキバキにビルドアップされた狂気の怪物でした。
「ありゃマッソォクラーケンじゃねぇか?」
ガストンさんがゴリゴリと拳を鳴らしながら言いました。
「みたいだね。何にせよ、この船に積まれている樽の負荷に飽きていたところだ」
アドニスさんの大胸筋からギリギリと恐ろしい音が響いています。
「あれは、低脂質高タンパクの最高のプロテインの素材です。プリン体が少し多いのが気になりますが、神聖なる筋トレの時間を妨げる海の悪魔には、女神様に代わって指導が必要ですな?」
バジルさんが自慢のメイスを一捻りすると、頭の重りがカチリと外れ、柄の中からジャラリと太い鎖が現れました。仕込みモーニングスターです。物騒ですが、最高に似合っています。
「よし、全員! パンプした前腕を見せつけるぞ!」
「「「おう!」」」
「お、おー!」
お父さん、お母さん。私はどうやら、海の悪魔と戦うことになりそうです。
私は後ろから、この魔法で皆を精一杯サポートしたいと思いま――待って? え? なんで私も一番前に!? やめて!
モヤシちゃん
豆苗
ティミ嬢
「「「は最前線で体幹を鍛えるんだ!」」」
「嫌ですーーーっ!!」
どうやら彼等は、パーティーの前衛と後衛の選択肢を、未だに間違えているのかもしれません。




