3-4rep 船酔い
「おえー……おえーっ、おろろろろろろ!!」
そう、船酔いです。胃の中身を全てぶち撒けても足りないくらいの、破滅的な船酔いです。
「大丈夫かい、モヤシちゃん?」
アドニスさんが爽やかにスロースクワットをしながら心配してくれますが、その上下にゆらゆら揺れる動きを見ているだけで――ヴォエッッ!!
「豆苗! 腹筋を固めるんじゃねえ、腹圧をかけて膨らますんだ! バルサルバ法だ!」
ガストンさんが屈強な船員を二人抱えてバックランジをしながら心配してくれますが、お腹に意識を向けた瞬間――ヴォエッッ!!
「ティミ嬢、船酔いにはこちらが効きますよ?」
バジルさんがバキバキに仕上がった前腕で、暖かい柑橘のジャムをお湯で溶かしたものを差し出してくれます。
ですが、私にはわかります。隠し味にプロテインが入っています。今の弱り切った私の胃腸、そして研ぎ澄まされた嗅覚がそれに反応して――ヴォエッッです。
「うーん、困ったなぁ。船旅はまだまだ続くし」
「豆苗! こういう時は荒療治が案外効くんだぜ?」
「左様、船で一番揺れるマストの上の見張り台から大海原を見れば、酔いも幾分かマシになるでしょう」
……ん? コイツら今なんて言いました?
今現在進行形で横隔膜が雑巾のように絞めあげられている私を、一番揺れるマストの上に乗せるですって?!
「うん、そうだね、そうしようか!」
アドニスさんの爽やかな笑顔がキラリと光ります。
「では、三人掛かりなら可能かと?」
「そうだな! よし! 行くぞ豆苗!」
「え? え? え? ちょっ……オエッ、待っ――」
私の拒絶を聞く耳を持たないマッスルモンスター三人にガッシリと体を持ち上げられ――。
「「「ワン、ツー、スリー!マッソォー!!」」」
「ぎえええええええええええ!!」
投げ出された私の体が天高く舞い上がります。
そして、あらかじめ船の進む速度を精密に計算していたかのように、私はマストの頂上にある見張り台へスポッと綺麗に着地させられました。物理法則を筋肉でねじ伏せないでください。
「うぅ……ひどいよ皆……後でプロテインと下剤を入れ替えておこう……たまに勘づかれてスクワット追加されるけど……」
見張り台のフチにしがみつきながら呪詛を吐いていると、遥か下の甲板から声が響いてきました。
「おーい! 周りを見てみろー!」
はっと息を呑んで見渡せば、どこまでも広がる青い大海原。
生まれ育った陸地はあんなに遠く、吹き抜ける風はどこまでも開放的で――揺れは最大の振幅を記録し、船酔いなんて一瞬で吹き飛んで――
「うぷっ……んな訳あるかーーーっ!!」
お父さん、お母さん。
私は、船酔いを相談する相手の選択肢を、根本から間違えたのかもしれません。




