3-3rep 船出
「バジルさんの故郷に行くんですよね? どんな街なんですか?」
荷車の上で揺られながら私が尋ねると、バジルさんは待ってましたと言わんばかりに胸を張りました。
「おぉ、ティミ嬢、良くぞ聞いてくれました! 我が故郷リフターシティは、それはそれは美しい街並みに、敬虔な信徒達(筋肉に)な人々が住まう、女神教の総本山です! 南方大陸の北端に位置していましてね? 海を望む丘の上の神殿で行うデッドリフトは、それはそれは気持ちの良いものですよ?」
「いや、聞きたいのはもっとこう、筋肉とは関係ない、風土風俗の話なんですけど……」
「これは失礼しました」
筋肉を基準に街の魅力を語るバジルさんに私が苦笑いしていると、横からガストンさんが身を乗り出してきました。
「バジルはこれでも有名人だからな! 連れ出すのに苦労したんだぜ?」
「やっぱり、大司祭様だからですか?」
「左様、それもありますが、国を挙げて十日十晩の祈祷をしないと降りてこない女神様の天啓を、スクワット中に聞けてしまう私が居ないと国が回りませんからな!」
バジルさんがガハハと豪快に笑いながら言いました。全然笑い事じゃないのに。国の一大事どころの騒ぎではありません。
「で、ちょうどバジルが女神様から癒しの力を奪われたドサクサに紛れて国を出たってわけさ」
アドニスさんが爽やかに答えます。
……何度見ても爽やかイケメンなのに! 服の隙間から見える腹筋の一つ一つが独立してピクピクと動いているのが不気味すぎて、全然話が入ってきません。
「さぁ、そろそろ北方大陸の南端の港町ケトルベルタウンが見えてきたよ! ここから一ヶ月の船旅だ! 船酔いに注意して、ハムストリングの柔軟を怠らずに行こう!」
「わー! 私、船に乗るの初めてです!」
潮の香りが風に乗って漂い始め、目の前に広がる青い海と港町に、私は思わず目を輝かせました。
ですが……そんな希望に満ちた私の期待を裏切るまで、三日とかかりませんでした。
お父さん、お母さん。
私は、乗る船の選択を間違えたのかもしれません。




