荒野のマッチョ達4
野伏りを撃退した喜びも束の間、アドニスさんが険しい表情で腕を組みました。
「……しかし、安心もしていられない。村の戦力がこれだけあるとバレてしまった以上、奴らはメンツにかけても全力でこの村を潰しに来るだろう」
「くっそぉ! マッスルが……あと三人いれば、拠点を叩きつつ村を護衛できるんだが……!」
ガストンさんが悔しそうに丸太を握りつぶします。
「え? こういうのって『七人』で、あと四人必要なんじゃないんですか?(……トレーニングのしすぎで算数もできなくなったのかな?)」
私が呆れてツッコミを入れると、バジルさんが静かに、そして力強く私を指差しました。
「ティミ嬢。……四人だ!」
謎の満面の笑みが、最高にムカつきます。
「私はマッスルじゃなくて魔法使いです! 『マ』しか合ってません! もう!!」
「いやいや、その釘バットでA級魔法使いやオークキング、果ては十魔団の膝や脛を粉砕しておいて、それは……なぁ?」
ガストンさんが皆に同意を求めると、マッスルモンスターたちは「うんうん」と深く頷きました。
「私の、それは、このジェットバットの加速魔法を活かした結果であってぇ……!」
私の必死の弁明も、三人の「いや、あれはいい広背筋の動きだった」という筋肉談義にかき消されていきました。
「よし。スプラウト村の皆はもう、守られるだけのモヤシではない。ここは僕たちが奴らの拠点を正義の筋肉でバルクをマッスルし、そのまま先へ進もう!」
「そうだな! 最高のパンプアップ状態で魔王の大陸を目指すぜ!」
「左様。悪しき芽は、成長する前に摘み取り……筋肥大の肥やしにするのが慈悲というもの」
「え? 待って、もう行くの!? だってチカちゃんとも仲良くなれたばっかりなのに……!」
三人は優しく、私を見つめました。
「モヤシちゃん……」
「豆苗……」
「ティミ嬢……」
ずびっ、ずびぃっ! 鼻水と涙を垂らしながら、私は叫びました。
「分かった、分かりましたよ! でも、ちゃんとお別れする時間くらいはくださいね!」
「もちろんだ! さ、早く朝のトレーニングメニュー(腕立て・腹筋・背筋・スクワット各500回)を終わらせて、チカちゃんの美味しいご飯を頂いてから出発しよう!」
村の外れ。
私とチカちゃんは、お互いに目を真っ赤に腫らしながら向かい合っていました。
「ティミちゃん……ありがとう。私、頑張るから。次会う時までに、もっと凄いバックドロップができるようになっておくね」
「うん……私も、もっと速くバットを振れるようにしておくよ。また、絶対会おうね」
約束を交わし、最後のお別れの握手をした、その瞬間でした。
「……っ!? いででででででで!!! チカちゃん、握力! 握力!! 手が、手が潰れるぅぅぅ!!」
「あ、ごめんね!? 嬉しくてつい、広背筋から力が伝わっちゃって!」
スプラウト村の人たちの伸び代、高すぎませんか!?
村を去る私の背後では、既に村人たちが「収穫効率アップのための片手懸垂」に励む活気ある声が響いていました。
その後、野伏りのアジトは、通りすがりの三体の巨大な筋肉と、ハイライトの消えた目でバットを振る一人の少女によって、物理的に圧壊・消滅したと噂されています。
お父さん、お母さん。
私は、誰かを守るために強くなる素晴らしさを知りました。
でも、握手だけで骨にヒビが入りそうになる友情は、少し重すぎる気がします。




