荒野のマッチョ達3
「地面から重たい物を持ち上げることほど、楽しいことはない!」
今日もマッスルモンスターたちの、清々しいほどに狂った迷言から一日が始まりました。
朝食を運んできたチカちゃんの腕を見れば、皮膚の下で血管が浮き出し、前腕が太ましくなっています。……待って、チカちゃん。君、もう私より腕力あるんじゃない?
その時、村の半鐘がけたたましく鳴り響きました。
「野伏りだぁー! 敵襲!!」
村中が騒然となります。しかし、村人たちの反応は一週間前とは違いました。各自が手に手に「丸太」や「棍棒」を持ち、自分の持ち場へとフロントランジで移動し始めたのです。……集団でランジ移動する村。正直、見ていて気持ち悪いです。
「チカちゃん、こっちへ!」
私は子鹿のように震える足で、チカちゃんと共に村の子供たちを集会所へ避難させました。中から鍵をかけさせ、私はその入り口の前に仁王立ちをします。足はプルプル、心臓はバクバク。やっぱり野伏りは怖いです。
野伏りの親玉が、馬に乗って悠々と現れました。
「おうおう、立派な砦なんか作ってよぉ。そんな暇があったら食料と金、それに女を差し出せってんだ! おい、お前ら、やっちまえ!」
野伏りたちが一斉に村へ突入しようとした、その時。
地響きと共に、三体の巨大な壁が立ちはだかりました。
「待て! 貴様らの筋肉が泣いているぞ!」
「そうだぜ! 筋肉は人を守るための正義のバルクじゃねえといけないんだ!」
「左様。悪しき筋肉は、女神様に代わってこのバジル大司祭が叩き直しましょう」
親玉が顔を引き攣らせます。
「こ、こいつら……マッチョを雇いやがった! マッチョをだぜ!? それも三人だ! だがビビるんじゃねぇ! 数で押し潰せ!」
飛びかかる野伏りたち。しかし、彼らはマッスルモンスターの一撃で羽虫のごとく弾き飛ばされていきます。殴られるというより、もはや「衝突事故」です。たぶん、死んだ方がマシなくらいの重傷を負って、全員が再起不能の山を築いていきました。
「き、今日はこのくらいにしておいてやる! おい、帰るぞ!」
親玉はそう叫ぶと、物凄いスピードで森へと逃げ帰っていきました。
一安心……かと思われた、その時です。
吹き飛ばされて比較的軽傷だった一人が、運悪く(私にとって)集会所の方まで転がってきていたのです。彼はボロボロで錆びた剣を引き抜き、私に切りかかってきました。
「……っ! 魔法を……『シールド』!」
咄嗟に魔法を唱えようとしましたが、相手の踏み込みの方が早い。私は愛用のジェットバットで剣を受け止め、鍔迫り合いに持ち込むのが精一杯でした。
「へへぇ、少し筋トレしたくらいで何が変わるってんだ! ヒョロい割には力があるが、大人には勝てないんだよ!ひん剥いて楽しんだ後に首を切り落として村の門に飾ってやるぜ!」
男が全体重をかけて剣を押し込んできます。くっ、手が、手が痺れる……!
「トドメだぁ!」
そう男が叫んだ瞬間、背後から影が飛び出しました。チカちゃんです。
彼女は男の背後からがっしりと抱きつきました。
「バジルさん直伝! 腰を落として背中と胸を真っ直ぐに……美しい姿勢で……腹圧をかけて……!」
「やめろ! 離せクソガキ!」
暴れ回る男を、チカちゃんは地面から「クリーン」に引き抜きました。
「――持ち上げるッ!!!」
そのまま、彼女は一切の迷いなく体を反らせました。
空中で美しい弧を描き、敵の脳天を地面に叩きつける――完璧な角度のバックドロップ。
「……ナイスプル! チカ!!」
アドニスさんの賞賛の声が響きます。
「えへへ……ティミちゃんを守ろうとしたら、怖かったけど……でも、凄く怖かったぁ……!」
地面に突っ伏した野伏りの横で、チカちゃんが泣き出しました。私は彼女を強く抱きしめました。ありがとう、チカちゃん。君の背筋、ガチガチだったよ。
駆けつけた村人たちから、地響きのような大合唱が巻き起こります。
「チカが野伏りを倒したぞ! バックドロップでだ!」
「チーカ! チーカ! チーカ!!」
そのコールの中、チカちゃんも泣きながら、逞しくなった腕を天高く突き上げて応えていました。
お父さんお母さん。
この村にはもう、守られるだけの弱者はいません。
ただ、村人全員の首が太くなっているのが、不気味でなりません。




