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「ふんっ!」「せいっ!」「筋肉!!」
ダンジョン内に響くのは、魔法の詠唱ではなく、肉体と肉体が激突する湿った破砕音。
ゴッドハンズの面々が通り過ぎた後には、ギルマンだったと思われる「魚肉のミンチ」が点々と転がっていた。
「おえっ……おえぇっ……」
「おっと、モヤシちゃんには刺激が強すぎたかな? 皆、もう少し原型を留めるように叩け! 特に亜人系は彼女、ダメみたいだからな!」
アドニスさんが、キラキラとした王子様のような笑顔で気遣ってくれる。
(……顔だけ、顔だけなら本当に伝説の勇者様なのに! 下半身がオーガなのよ……っ!)
「す、すみません……足手まといで……。おえっ」
「なーに、気にするな! 豆苗が門を開けてくれたおかげで、俺たちは今、最高のパンプアップができてるんだぜ!」
ガストンさんが、励ましのつもりで私の背中をドンと叩いた。
——その瞬間、私の体は文字通り「くの字」に折れ、弾丸のように飛んで背後の石壁に激突した。
「ティ、ティミ嬢ーーーッ!?」
視界が真っ白になる。
……あぁ、おばあちゃん。おばあちゃんが見える。
お花畑の向こうで、おばあちゃんが笑顔で「ほら、追い込んで! 腕を高く上げて!」と、激しいジャンピングジャックをしながら私を呼んでいる……。
「……っ!! せいッ!!(ボキィッ)」
背中に鋭い衝撃が走り、私は無理やり現世に引き戻された。
バジルさんが私の背中に膝を立て、強引に肺を膨らませる「物理蘇生」を施していた。
「ゲホッ、ハァッ、ハァ……! ……あれ? 私……まだ、生きてる?」
「すまねぇ豆苗、悪かった! この通りだ! お詫びに俺が夜なべして縫った、特製クマさんぬいぐるみをあげるから許してくれ!」
ガストンさんが差し出したのは、恐ろしく精巧で、かつどこかマッスルな体型のクマさんだった。
「えっ……あ、可愛い……。ありがとうございます。……その、私がひ弱なのが、いけないんです」
「モヤシちゃん!!」
アドニスの鋭い声が、私の卑屈な言葉を遮った。
「ひ弱なのは事実だ。だが、それを受け入れるな! 君は今、可能性の塊なんだ! 筋肉がないということは、これから全身に『伸びしろ』しかないということだろう!?」
「か、可能性……? 私が、伸びしろ……?」
私の絶望を「成長痛」のように言い換える彼らの瞳は、どこまでも純粋で、狂っていた。
「さあ、語り合いは後だ。どうやら君が壁をぶち抜いてくれたおかげで……ショートカットできたらしいな」
崩れた壁の向こうから、冷たい風が吹き抜ける。そこは、巨大な水の魔獣が鎮座するボス部屋だった。
「よし野郎ども、腹筋を固めろ!! 筋トレ開始だ!!」
——お父さん、お母さん。
私は今、ボスの咆哮よりも、隣のイケメンの広背筋が「メキメキ」と鳴る音に恐怖しています。
やっぱり、私は選択を間違えたのかもしれません……。




