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「あ、あの……下ろして……胃袋が、昨日の肉が逆流しそうです……」
ガストンさんに「お土産の折詰」のごとく摘み上げられ、上下に揺られながら辿り着いたのは、霧に包まれた『水鏡の古塔』だった。
「これだ! この『水の壁』、俺たちが本気で殴れば殴るほど水飛沫が飛んで、一向に突き破れねぇんだ!おかげで後から来たヒョロヒョロの魔術師パーティーに先を越されちまってよ。筋肉への屈辱だぜ……。どうだ豆苗、いけるか?」
ガストンさんが地面に(ようやく)私を下ろす。私の脚は、昨日のスクワットのせいで、生まれたての小鹿よりもプルプルと震えていた。
「……これ、ただの属性認証ギミックです。攻撃するんじゃなくて、水を馴染ませればいいだけですよ……。……『ウォーター』」
私が杖を振ると、あれほど屈強な男たちが苦戦していた水の壁が、嘘のようにスルスルと左右に割れた。
「「「おおおおおぉぉぉぉっ!!!」」」
「やるじゃねぇか豆苗! お前、天才か!?」
ドガッ!! という衝撃が私の頭を襲う。ガストンさんが良かれと思って撫でてくれたのだが、それはもはや「撫でる」というより「杭打ち」に近い威力だった。
「ひぎっ……あ、首、首が……」
「おっといけねぇ! 豆苗の頚椎が右に3センチズレたぞ! バジル、早くしろ!」
バジルさんが即座に駆け寄り、袋から取り出したのは……魔法の薬草でも聖印でもなく、カチカチに濡らして固めた「塩の塊」だった。
「案ずるなティミ嬢。女神の加護(物理的な冷却)を授けよう。この『湿り塩』を患部に叩き込めば、炎症など一発で引く!」
「……え? あの、バジルさん……僧侶ですよね? 普通、ここは『ヒール』とか……神聖魔法で……」
その瞬間、ダンジョン内に一際大きな爆笑が響き渡った。
「「「あーっはっはっはっは!!!」」」
「神聖魔法!? 傑作だ! おいバジル、聞いたか! お前に魔法を使えってよ!」
「いやぁ、ティミ嬢は面白いことを言うなぁ! 私がそんな繊細なもん使えるわけないでしょう!」
ガストンさんが腹を抱えて笑いながら、私の肩をバンバン叩く。その勢いでもう肩は外れている。
「いいか豆苗。こいつは確かに敬虔な女神教の司祭だ。だがなぁ、筋肉を鍛えすぎて自分の肉体を信じすぎたせいか、女神様から『魔法の才能』を根こそぎ没収された、筋トレ界の異端児なんだよ!」
「そう、私の祈りは女神じゃなく、大胸筋にしか届かんのだ! 僧侶ではなく僧侶(物理)! それが私バジル・サルト司祭だ!」
バジルさんが誇らしげに上腕二頭筋をピクピクさせる。その横で、私は首に冷たい塩を塗り込まれながら、虚空を見つめた。
——お父さん、お母さん。
このパーティー、回復役まで「物理」でした。
やっぱり私は、選択を完全に間違えたのかもしれません……。




