2rep
週に1回くらいのペースで更新予定
完結済み
痩せっぽちの魔法使いと筋肉達のハートフルコメディ
ギルドの酒場『アイアン・バイセップス)』
そこは、街で最も「騒音」と「獣臭」が激しい場所だった。
「ほら、食べなさい! ティミ嬢! タンパク質が足りないと魔法のキレが悪くなりますよ!」
バジルさんが、私の口に特製「岩石イノシシの塩焼き」を次々と放り込んでくる。
もぐもぐと必死に咀嚼する私の目の前で、アドニスさんもガストンさんもバジルさんも、楽しそうに笑いながらエールを煽っている。
だが、おかしい。
……机と椅子があるのに、彼らは誰一人として座っていない。
彼らは全員、中腰。そう、地獄の「空気椅子」の姿勢で宴会を楽しんでいるのだ。
「あの……皆さん、椅子、空いてますよ……?」
「ふっ、甘いなモヤシちゃん。椅子に座るのは筋肉への冒涜だ。日常のすべてをトレーニングに変えてこそAランクだ!」
アドニスが爽やかな笑顔で、太ももをプルプルさせることもなく言い放つ。
そこに、ギルドの受付嬢・カレンさんが引きつった笑顔でやってきた。
「……よかったわね、ティミドちゃん。彼ら、見た目と行動は……その、かなりアレだけど、実力だけは本物のAランク冒険者よ。しっかり鍛えてもらいなさいな……(だからお願い、一日も早く彼らをダンジョンに連れ出して、街の器物を損壊させないで)」
カレンさんの目が「犠牲になってくれ」と語っていた。
「よっしゃあ! ここらで新人歓迎の儀式を始めるぞ!!」
ガストンが、ティミドの胴体ほどもある巨大な盃を、ドォォォォン!!と机に叩きつけた。
「えっ、あ、お酒ですか!? 私、未成年で、飲めな……」
「違う! 『地獄の耐久スクワット対決』だ!! 最初にギブアップした奴が、今日のプロテイン代……じゃなかった、宴会代を全額奢りだ!!」
「「「「レディ……ゴー!!」」」」
「イチ! 二! サン! シ!!」
「ひ、ひいぃぃぃ……っ!?」
酒場の床が、男たちの屈伸運動に合わせてミシミシと悲鳴を上げる。
杖を握るはずの私の手は、今、自分の膝を支えるためだけに必死に震えている。
「ほらどうしたモヤシちゃん?足の震えは武者震いかい?魔法を練るように大腿四頭筋を練り上げるんだ!!」
横でアドニスさんが、涼しい顔で高速スクワットをしながら励ましてくる。
——お父さん、お母さん。
私は今、魔法の詠唱よりも先に、筋肉の断末魔を聞いています。
やっぱり私は、選択を完全に間違えたみたいです……。




