1rep
週に1回くらいのペースで更新予定
完結済み
痩せっぽちの魔法使いと筋肉達のハートフルコメディ
この世界における「魔法」とは、選ばれし者が紡ぐ神秘の業だ。
美しく、華やかで、そして何より——絶対的である。
難攻不落のダンジョン。物理干渉を拒絶する魔法障壁。死を招く呪いの罠。それらを打ち破るには、深淵なる魔導の知識と、繊細な杖さばきが不可欠だとされている。
ゆえに、この世界では「魔女」や「魔術師」こそが冒険者の花形であり、パーティーの核。剣士や戦士は、彼女たちが呪文を唱えるまでの時間を稼ぐ「肉の盾」に過ぎない……。
それが、この世界の「常識」のはずだった。
だが、この辺境の街『マッスル・ポート』のギルド周辺だけは、何かが根本から狂っていた。
「ダメね。ティミドちゃん、君の魔力じゃこの街の依頼は受けられないわ」
受付嬢のカレンさんの冷たい言葉が、私の胸に突き刺さる。
新米魔女の私、ティミド・マッソォは、生まれ育ったこの街が嫌いだった。周囲のダンジョンの難易度がバカみたいに高く、ひよっこの魔法使いなど、どのパーティーも拾ってくれないのだ。
「……そうです、よね」
杖を抱え、トボトボとギルドを後にする。
私の杖は細い。そして私の腕も、折れそうなほど細い。
「せめて、魔法の才能さえあれば……」
そんな私の耳に、地鳴りのような咆哮が飛び込んできた。
「おおおおおおおらぁぁぁぁぁ!!!」
「硬ぇ! この箱、マジで硬ぇぞアドニス!!」
「怯むなガストン! 筋肉の限界を超えろ! 物理で壊せないものなどこの世にない!!」
路地裏の広場で、私は見てしまった。
信じられない光景を。
一人は、彫刻のような美貌を持ちながら、首から下が岩石の巨人のような男。巨大な金砕棒をこれでもかと振り下ろしている。
一人は、顔面凶器のような強面でありながら、流星錘をぶん回しては「ちくしょう、壊れねぇ!」と涙を流している大男。
一人は、聖職者の服が筋肉で弾け飛びそうな勢いの男。メイスを片手に「祈りが足りんぞ! 叩き壊して女神の慈悲を見せろ!」と叫んでいる。
彼らが囲んでいるのは、一つの宝箱。
それは『物理無効』の呪いがかかった、魔法でしか開かないはずの超高難度ギミック。
それを……彼らは……。
丸太のような腕を真っ赤に腫らしながら、ひたすら物理でブチ壊そうとしていたのだ。
あまりの光景の凄惨さと、あまりの効率の悪さに、私は思わず声をかけていた。
「あ、あの……。それ、私が『アンロック』の魔法を使えば、たぶん開くと思うんですけど……」
ピタリ、と筋肉たちの動きが止まる。
六つのギラついた眼光が、モヤシのような私に集中した。
「……あ?」
イケメン……いや、イケメンすぎる筋肉ダルマが、私を見下ろす。
私は震える手で杖を掲げ、初級の開錠魔法を唱えた。
「……開け(アンロック)!」
パカッっと宝箱が開く
沈黙。
そして次の瞬間、路地裏が爆発せんばかりの歓声に包まれた。
「うおおおおおお! 魔法だ! すげぇ、魔法ってマジで実在したんだな!!」
「開いたぞ! 拳を一度も振るわずに開いた! 奇跡だ、これは神の奇跡だ!」
「おい見ろ、この嬢ちゃんの腕、豆苗みたいに細いぞ! なのにこんな業を……! 苦労してきたんだな、かわいそうに……っ!」
泣きながら私を抱き上げ(そのままミリタリープレスのように持ち上げられ)、彼らは太陽のような笑顔でマッスルポーズを決めた。
「よし、決まりだ! 今日からお前は俺たちの仲間だ! 安心しろ、俺たちがその『モヤシ』みたいな体、鋼鉄のバルクで守ってやるからな!!」
逆光の中、盛り上がる大胸筋が、私には死神の鎌よりも恐ろしく見えた。
——お父さん、お母さん。
私は、とんでもない人たちに出会ってしまいました。
そして……たぶん、選択を間違えたのかもしれません。
こうして、私の「魔法使い」としての快進撃が幕を開けたのである。




