OVA第7話:サウナは命の選択です!
旅の途中で立ち寄ったのは、活火山の麓にある宿場町。そこには「サウナ」という未知の施設がありました。
「サウナって、何ですか?」
「モヤシちゃん、知らないのかい? 熱く焼けた石に水をかけ、その蒸気で体を温めて発汗を促す、筋肉と魂の洗浄儀式だよ」
「デトックスだぜ! 減量にもいいし、血流が爆上がりして回復も早まる。俺らには必須の聖域だ」
この町のサウナは特に温度設定が高いことで有名らしく、マッスルモンスターたちは「入りましょう! 是非!」と鼻息を荒くしています。……嫌な予感しかしません。
「……あの、モヤシちゃん。言いづらいんだけど、この町のサウナは……その、混浴なんだ」
アドニスさんが、珍しく頬を染めて視線を逸らしました。
「いや、俺たちはいいんだ。時間を変えて入れば済む話だしよ」
「しかし、私たちが気を遣っても、他のお客さんが入るのを止めることは不可能ですからねぇ」
(……ふぇ。なんでそういうところだけ紳士なんだよ。っていうか、一人で知らない野郎たちに囲まれるくらいなら、まだこの「知ってる野郎(怪物)」たちと一緒の方が……マシかも?)
普段から彼らは「ポージング練習だ!」と言ってほぼ全裸で過ごしていますし、今更です。私はタオルを巻くことを条件に、三人との同行を決めました。せめて他のお客さんが入ってこないことを祈りながら。
「……って、サウナ、狭くないですか!?」
中に入って愕然としました。本来なら十人は余裕で入れるはずのスペースが、三人の巨体が座っただけで、ぎゅうぎゅう詰め。物理的な圧迫感が凄まじい。
しかも。
「ふむ、まだ温度が甘いですね。ロウリュ(注水)を強めましょう」
「ガハハ! もっと熱くなれ! 仕上げにスクワットだ!」
バジルさんが焼けた石にバケツ一杯の水をぶっかけ、地獄のような熱気が立ち昇る中で、三人は狭い室内でスクワットを開始。入ろうとした一般のお客さんが、ドアを開けた瞬間に「ヒッ……!」と短い悲鳴を上げて光の速さでドアを閉めるのが見えました。……そりゃそうです。100℃近い高温、湿度は飽和水蒸気。その水蒸気の9割が、野郎たちの汗なんですから。
「あ、何だか……意識が……遠のく……」
私の記憶はそこで途切れました。
次に意識が戻ったのは、キンキンに冷えた水風呂にドボンと投げ入れられた瞬間でした。
「……ぷはっ! げほっ、ごほっ! し、死ぬ! 溺れる!!」
必死に縁に縋り付くと、そこにはスッキリした顔の三人が。
聞けば、意識を失った私を外へ運び出す際、「乙女の体にベタベタ触るのは失礼にあたる」という謎の配慮により、私の片足を掴んで豪快な投擲で水風呂に放り込んだのだとか。
……後で覚えていろよ、筋肉ダルマ。
風呂上がり、特産品の「冷たい牛乳に果実の汁を混ぜたもの」を渡されました。
「ふぁ……美味しい……。スッキリしました……」
火照った体に冷たい飲み物が染み渡ります。
脱衣所の体重計に恐る恐る乗ってみると、なんと少しだけ体重が減っている!
「やったー! 8kg増の絶望から、ようやく一歩前進……!」
あまりの嬉しさに、私はその場で小さくジャンプしました。
その瞬間です。
緩んでいたタオルが、ハラリと足元に落ちました。
「「「!!!」」」
三人は、もはや魔法を超えた領域のスピードで、一歩の踏み込みが数メートルに及ぶ「フロントランジ」を繰り出し、光の速さで更衣室から消え去りました。残されたのは、全裸で呆然と立ち尽くす私一人。
そこを通りかかった地元のお子様が、私の体を指さして無邪気に言い放ちました。
「ママ!見て!見てー!ムキムキペタンコだー!」
……お父さん、お母さん。
私は、羞恥心という名の筋肉を鍛えるのを忘れていたようです。
選択を間違えたという確信が、冷たい牛乳と共に胃の底へ沈んでいきました。




