OVA第6話:爆食撲殺
「ヒッヒッヒ……。飢えよ、渇け、そして我が胃袋の糧となれ!」
私たちの前に現れたのは、魔王軍十魔団が一人、爆食のベルゼ。
彼は「暴食」を司る魔族らしく、その肥大化した腹部からは、嗅いだ者の食欲を異常に暴走させ、同時に内臓を腐敗させる「腐肉の甘い香り」を放っていました。
「ぐ、うぅ……。これは、内臓へのダイレクトアタック……!」
「意識が……食欲に、支配される……。鶏肉、鶏肉を食わせろぉ……!」
さすがのマッスルモンスター三人衆も、この「匂い」には抗えませんでした。
筋肉を維持するために常人以上の代謝と食欲を誇る彼らにとって、この魔香は猛毒。アドニスさんは大胸筋を押さえて膝をつき、ガストンさんは地面を掻きむしり、バジルさんは震える手でロザリオを噛み締めています。
しかし。
「…………ねぇ、うるさいんだけど」
私は、一人だけ平然と立っていました。
それどころか、こめかみには青筋が浮かび、手にしたジェットバットからはバチバチと黒い火花が散っています。
「な、なぜだ!? 我が『暴食の魔香』を浴びて、なぜ正気でいられる! 貴様、さては味覚がないのか!?」
驚愕するベルゼに、私は冷え切った視線を向けました。
「味覚? あるわよ。……ありすぎるくらいにね」
そうなのです。私は元々、村でも一番の小食。
それがこの旅に出てからというもの、あの獣たちに「バルクが足りない」「カタボるぞ」と脅され、毎日毎日、一羽丸ごとの鶏肉や泥のようなプロテインを無理やり胃にねじ込まれてきたのです。
その結果、私の体重は旅立ちの日から8kgも増加。
魔法使いのローブが脇の下でパツパツに張り、お気に入りのスカートのチャックが閉まらなくなった今の私は、世界で一番「食」という言葉に敏感で、そして不機嫌だったのです。
「こっちはねぇ……毎日吐きそうになりながら食ってんのよ。……お腹いっぱいだって言ってんのに、プロテインのおかわりを持ってくるアイツらの顔、見たことある!? 恐怖よ!? 暴力なのよ!!」
私の怒りに呼応し、ジェットバットの魔法陣が過去最大級の輝きを放ちます。
「『食欲』? そんなの、旅に出る時に捨ててきたわよぉぉぉ!!」
「加速魔法・最大出力!!」
空気が爆ぜる音と共に、私はベルゼの懐に飛び込みました。
狙うは一点。脂肪に隠れた、脆弱な「脛」。
――ドグォォォォォォンッ!!!――
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああ!!!」
ベルゼの悲鳴が荒野に響き渡りました。
バットがめり込んだ衝撃で、彼の脛からは白い骨が不自然な角度で飛び出し、衝撃波がその巨体を宙に浮かび上がらせました。
「……ふぅ。……起きて、筋肉ダルマたち。トレーニングの時間だよ」
私の冷たい声で、正気に戻ったマッスルモンスターたちがムクリと起き上がりました。
「……おぉ、今の衝撃で目が覚めたぞ」
「豆苗、よくやった。……あのデカい肉、なんだか脂身が多くて不味そうだが……」
「いいえ、ガストン。あれは立派な『サンドバッグ』ですよ」
そこからは、目を逸らしたくなるような光景でした。
正気に戻った三人の「蹂躙」が始まります。
殴る、蹴る、投げる。ベルゼの悲鳴はやがて、骨と肉が潰れる「ベチャッ」という鈍い音に変わり、かつての暴食公爵はピクリとも動かなくなりました。
「さぁ、空腹を我慢するのもトレーニングのうちですよ! 今夜は消化を助けるために、この特製・低カロリープロテインを飲んで寝ましょうか?」
「賛成! 胃を休めるのもバルクアップへの近道だね」
バジルさんが、これまた怪しい青色の液体を取り出しました。
……もう、それすらも「チキンシェイク」よりはマシに思える自分が憎い。
お父さんお母さん。
私は、怒りという感情を筋肉に変換する術を覚えてしまいました。
選択を間違えたという確信が、もはや私の「体幹」となって私を支えています。




