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OVA第2話:必須アミノ酸の衝撃

「ティミ嬢……昨日は大変申し訳ないことをしました」


翌朝、死人のような顔で這い出した私を待っていたのは、これまた少しだけ目の下に隈を作ったバジル司祭でした。……え、この人でも体調崩すことあるの?


「私も昨晩、胃の中がカサカサと賑やかで中々寝付けず……。仕方が無いので、朝までプランクをして過ごしましたよ! はっはっは!」


「……はは、そうですか。私は、お腹の中で百足が運動会をしてる夢を見ましたよ……」


物凄い筋肉痛です。表情筋すら悲鳴を上げているので、口を動かして喋るのすら辛い。バジルさんは「朝までプランク」とかいう、人間には不可能な徹夜の過ごし方をしておきながら、なぜか肌に艶があります。怖い。


「で! ですよ! 今日は反省を活かした改良版です!」


「……あの、バジルさん。今日は見ての通り、私、指一本動かすのがやっとでトレーニングなんて出来ていないので……。その、ほら。栄養と運動は『一対の翼』なんですよね? 今飲んだら片方の翼が重すぎて墜落しちゃうんじゃないかなぁ……なんて、思うんですけど……」


必死の抵抗でした。これ以上、あの地獄の味を喉に通したくない。

しかし、筋肉の導師は私の甘い考えを、バルクアップした大胸筋で跳ね返しました。


「何をおっしゃる、迷える子もやしよ! 大丈夫、本日の逸品は、そういう時のための『EAA』ですよ!」


「いーえーえー……?」


「左様。エッセンシャル・アミノ・アシッド、即ち『必須アミノ酸』。簡単に言えば、壊れた体を回復させるために必要な、神から与えられし至高の栄養素ということです。今回は体に優しい食材ばかりを厳選しました!」


体に優しい。

その言葉に、私はつい「あ、そういうのなら飲めるかも……」と、ガードを下げてしまったのです。それが地獄への招待状だとも知らずに。


「さあ、こちらです!」

バジルさんが差し出したカップを覗き込んだ瞬間、私の瞳孔は限界まで収縮しました。


「……いやぁぁぁぁぁ! 何これ!? 紫色だし、表面の泡がマグマみたいにボコッ、ボコッてしてるじゃないですか!! これのどこが体に優しいんですか!?」


「おや、見た目ですか? これは、この地方で採れる『大キラービー』のハチミツとプロポリスを混ぜたら、なぜか化学反応でこのような色と泡が生まれました! 自然の神秘ですね!」


自然の神秘というより、暗黒魔法の実験失敗にしか見えません。というか「大キラービー」って、防護服を着たベテラン冒険者でも命を落とす、あの猛毒蜂のことですよね?


「……おや? 飲む元気も無いのですか? これは大変だ、枯れかけた苗木には直接水をやらねばなりませんね。それでは、私が女神様の慈悲をば……」


「あ、自分で、自分で飲め……あががががががががが!!!」


無理やり流し込まれた液体は、昨日とは違う衝撃を私に与えました。

まず、殺人的な甘みが舌を襲ったかと思うと、次の瞬間、喉の奥から火を吹くような激痛が突き抜けたのです。


「辛い辛い辛い辛い辛い!! 口から、口から本物の火が、炎魔法が出ちゃうぅぅ!!」


「おぉ、やはりデーモンジンジャーの効果は絶大ですね! 南の大陸の高地に自生するそれは、発汗・殺菌作用が普通の生姜の十倍と言われています。まさに悪魔的な回復力!」


私は悶絶しながら地面を転げ回りました。

胃が焼ける! 喉が燃える! でも、おかしいんです。

のたうち回っているうちに、あんなに重かった筋肉痛が、まるで嘘のように霧散していくのが分かりました。デーモンジンジャーのパワーが、強制的に血流を爆上げし、疲労物質を焼き尽くしている……!?


「あ……あれ? 痛み、大分引いたかも……」


「実験は成功ですね! 痛みが引いたのなら、準備運動は完了です。向こうでアドニスとガストンが待っていますよ! さあ、朝の『耐久無酸素スクワット大会』といきましょう!」


「殺してぇぇぇぇぇぇ!!! いっそ一思いに殺してぇぇぇぇ!!!」


私の絶叫は、快晴の空にどこまでも響いていきました。

回復させて、また壊す。

この人たちの優しさは、無限に続く円環の地獄サーキットトレーニングだったのです。



お父さん、お母さん。

痛みは消えましたが、私の心には消えない傷が増えていくばかりです。

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