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2-11rep

翌日になっても痛みは一向に引かず、私が天幕テントの中で「ウゥ……」と呻いていると、北方王国騎士団の団長さんがお礼をしたいと訪ねてきました。


「モヤシちゃんもまともに動けないし、タンパク質がいただけるなら!」


「おう! 沢山食うぜ!」


「ティミ嬢、回復のためには何よりタンパク質ですよ!」


いつもはガストンさんの役目ですが、今日は珍しくバジル司祭の丸太のような肩に担がれ、私たちは近くの砦へと案内されました。


「野戦の砦では満足な馳走も出せぬが、言われた通りバルクボアの丸焼きをありったけ用意した! さあ、皆で食おうじゃないか!」


砦の中央には、見たこともない巨体のイノシシが丸焼きにされていました。


「「「おおおおお!!」」」


赤身の部分を猛烈な勢いで貪り食う三匹の獣。

「待って、美味しいけど、まだ飲み込めてな……むぅー!」


三人が代わる代わる「ここが一番いい筋肉(赤身)だ!」と私の口に美味しいところを捩じ込んできます。リスのように頬を膨らませた私は、もはや喋ることも叶いません。


宴もたけなわ、三人は特製プロテインパウダーを酒で溶かした「筋肉カクテル」で上機嫌になり、兵士たちと腕相撲を始めていました。

そんな時、騎士団長さんが私の隣に座り、静かに問いかけてきました。


「……お嬢ちゃん。こんな場違いなところに連れてこられて、本当は辛いんじゃないか? なんならここで保護して、故郷まで送り届けてやってもいいが……」


私は、口の中のバルクボアをようやく飲み込み、空を見上げました。


「……私……帰れません。場違いなのは百も承知ですが、不本意とはいえ故郷を追われた身ですし……それに、待つ人も、もう居ないんです」


——そう、私の両親はとっくの昔に他界しています。故郷に私の居場所なんて、最初から無かったのです。


少し離れた場所で酔ったふりをしながら、三人のマッスルたちがピクリと耳を動かしたのを、私は気づかないふりをしました。


「それに……あの筋肉の暴走を止められるのは、私だけですから! ……一度も止められたことは無いですけど! でも、大事なパーティーの仲間を見捨てるなんてできません。だいぶ酷い扱いも受けてますけど……皆、本当は優しくて、強くて……マッチョなんです!」


熱くなった頬を冷ますように、私は一気にプロテイン入りの酒を煽りました。


「彼らが、その鋼のバルクで守ってくれると言ってくれたから……私はショボいですけど、基礎魔法で精一杯支援するんです。だから……どこへだって行けます」


「……なるほど。無粋なことを聞いて申し訳なかった。魔王討伐の任……ご武運を」


団長さんは深く頭を下げると、男たちの輪の中へ戻っていきました。


ふと視線を向けると、三人の筋肉獣たちは酒を飲みながら、なぜかまたスロースクワットを始めていました。他の兵士たちをダンベル代わりに持ち上げたりして、相変わらずの風景です。

でも、なんだろう。

月明かりのせいでしょうか。


いつもはギラギラしている彼らの瞳が、ほんの少しだけ、潤んでいるように見えました。



お父さん、お母さん。

私は今、筋肉と汗とプロテインの臭いに包まれながら、不思議と温かい気持ちでいます。

やっぱり、私は選択肢を、……いいえ。

私は、最高に間違った選択肢を、正解にしようとしているのかもしれません。

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