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いきなり走り出したものだから、私の肺は限界でした。ぜぇぜぇ……ヴォエッッ……。さっきまで私の心を癒してくれていた最高級フォンダンショコラが、荒野に鮮やかな虹を描いて消えていきました。
「おお見えてきたぜ! 北の大橋がよぉぉ!」
ガストンさんが、心拍数一つ上げずに野太い声を張り上げます。
視線の先、北の大橋を埋め尽くしていたのは、百や二百なんて生易しい数ではありません。ゆうに千を超える、飢えた人狼の軍勢。立ち上る殺気と獣臭に、普通の人間なら腰を抜かして逃げ出す光景です。
「中々高強度のサーキットになりそうだね?」
爽やかに、まるで近所の公園でジョギングでもするかのようなトーンで言うアドニスさんが、心底怖いです。
「ふむ、雑魚一匹一匹に投げ技を繰り出すのは、少しタイパ(タイムパフォーマンス)が悪いですね……」
バジルさんが、鎖付きのメイスをぶんぶんと振り回しながら、軽くジャンプして膝の調子を確かめています。司祭様、それもう似合い過ぎじゃないですか?
「よし、作戦はこうだ! 全員——」
アドニスさんが、私も指さして断言しました。
「——腹筋を固めて、雄々しく突っ込む! 全てをマッスルでパンプしてバルクに変える! いいな!?」
「「おう!!」」
(やだやだやだやだやだやだ!!)
え? だって私、ただの魔法使い(自称)ですよ? 初期魔法しか知らないし、筋肉だって、この地獄の二週間で少しはマシになったとはいえ、同世代の運動部の子と同じか、それ以下しかないんですよ? 千匹の人狼の群れに突っ込むなんて……あ、死ぬ。今、死神がスクワットしながら手招きしてるのが見えたかも。
「大丈夫かい? モヤシちゃん」
アドニスさんが、震える私の肩に手を置きます。
「おいおい、豆苗は俺たちがしっかりこのバルクで守ってやるって約束したろ?」
ガストンさんが胸筋をピクピクと動かして笑います。
「ティミ嬢……後衛を信じてくださいな」
「私が後衛です!!!」
私の魂の叫びに、三人は顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げました。
「え? ウチに後衛なんていたか?」
「いや、記憶にねぇな……」
「あー、そんなことより、あっちから人狼の群れが向かってくるぞーーー!!」
声が大きいよガストンさん!!
人狼たちの地響きのような足音が近づいてきます。
お父さん、お母さん。
前衛と後衛の定義について議論している間に、私は狼さんたちのお昼ご飯(デザート付き)になりそうです。
やっぱり、私は選択肢を根本から、概念レベルで間違えたのかもしれません。




