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大会当日。会場の熱気は、物理的な「熱」となって私の肌を焦がしていました。
「これ、夜なべして作ったんだ……」
ガストンさんが、ゴツゴツした指先で器用に差し出してきたのは、布面積が絶望的に少ない……ビキニでした。
「無理無理無理無理! 恥ずかしくて死んじゃう!!」
「モヤシちゃん、大丈夫。皆同じ衣装だし、神聖なフィジーク大会をいやらしい目で見る人なんて居ないさ。もし居たら……ね?」
アドニスさんが爽やかに微笑みますが、その奥にある瞳は全く笑っていません。もし不埒な輩がいたら、その場で「物理的に」排除される未来しか見えませんでした。
「わかったよ……着るよ……」
観念して更衣室へ向かう途中、バジル司祭から「聖なる香油」を渡されました。
渋々着替え、鏡の前に立つと……。
そこにいたのは、旅に出る前からは考えられないほど、健康的で、肌に張りのある少女でした。……目は死んでいますが。
「え、これが……私?」
浮き出た血管、引き締まった腹筋。魔法使いとしてのアイデンティティが、確実に筋肉に食われているのを実感します。
「笑顔! 笑顔ですよ!ティミ嬢!!」
更衣室の外から、応援とも脅迫とも取れる声援が飛んできます。
「それでは、選手入場です!」
ステージに上がると、最前列には異形の筋肉たちが陣取っていました。
「大きい! ナイスバルク! 眠れない夜もあったろう!!」
飛び交うコール。正直、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。でも、周りの選手たちは皆、自分の肉体を誇るように輝いています。
……皆の路銀のためにも、やるしかないんだ!
私は精一杯の作り笑顔を浮かべ、見よう見まねで、彼らがいつも取っているマッスルポーズを決めました。
「ナイス! スマイル!!」
「ぎこちないぞー! もっと広背筋を広げろ!!」
コールの八割は、身内の筋肉ダルマ三人衆です。
そして、運命の結果発表。
「第3位……ティミド・マッソォ選手!」
景品は、プロテイン1kgと銅貨50枚。
ちなみに、この街のトイレットペーパーの相場は銅貨55枚です。ケツを拭く紙にもなりません。
ステージを降り、項垂れる私。
「皆、ごめん……優勝できなかった……」
しかし、三人は拍手をしながら、これ以上ないほど満足げな顔をしていました。
「いやぁ、あそこのサイドチェストのキレは最高だったぞ!」
「あの鶏肉ジュースの成果が、大腿四頭筋にしっかり現れていましたよ」
……え?
もしかして、この人たち……優勝賞金なんて最初からどうでもよくて、ただ私を鍛えて、ステージに立たせるのを楽しんでただけなんじゃ……!?
「お前ら……当分プロテイン抜きだーーーー!!!」
私の絶叫は、会場の歓声にかき消されました。
お父さん、お母さん。
私は今、トイレットペーパーすら買えない銅賞(3位)の重みを噛み締めています。
やっぱり、私は選択を根本から間違えたのかもしれません。




