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【なろう歴史月間77位!/日間18位】雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【完結済/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第五章「雷、還る」

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第67話 柳川の秋

柳川の朝は、早かった。

宗茂は、夜明け前に——目を覚ます。

床の中で、しばらく——天井を見ていた。

七十を過ぎた体。

起き上がると——膝が、痛む。

腰が——重い。

しかし——

目だけは、まだ——生きていた。

縁側に出る。

花宗川が——見える。

秋の朝の川が——白く霞んでいる。

霧が——川面を、包んでいた。

「……今日も、流れているな」

小さく、言う。

毎朝——こう言う。

柳川へ帰ってから——ずっと、こう言っている。

「今日も、流れているな」

「ああ、流れている」

それだけで——

この朝が、始まった。

十時が、縁側に——茶を持ってくる。

「殿——」

「ああ」

「寒くはありませんか」

「大事ない」

「もう少し——着込まれては」

「大事ないと言っている」

「……はい」

十時も——白髪になっていた。

顔に——皺が増えた。

しかし——

その目は、変わらなかった。

静かな目。

宗茂のそばに——いつもいる目。

「十時」

「はい」

「お前は——老いたな」

「殿も——老いましたよ」

「そうだな」

「二人とも——老いました」

「ああ」

「しかし——」

十時が、川を見る。

「川は——老いませんね」

「そうだな」

「変わらず——流れています」

「ああ」

「誾千代様が——言った通りに」

「……ああ」

茶を、受け取る。

温かかった。

両手で——椀を包む。

誾千代が——白湯を包んでいた手を、思い出す。

「水は、待っています」

その言葉が——生まれた日を。

「……覚えているか」

小さく、言う。

川に向かって。

「お前が——この言葉を書いた日を」

答えは——返らない。

川が——流れるだけ。

しかし——

それで、十分だった。

鎮幸が——庭に来る。

五十年来の——家臣。

その足が——少し、遅くなっていた。

「殿」

「鎮幸」

「今日も——川を見ていますか」

「ああ」

「毎朝——」

「ああ」

「飽きませんか」

「飽きない」

「なぜですか」

宗茂は——川を見る。

「昨日と——同じ川ではない」

「はい」

「水は——入れ替わっている」

「はい」

「しかし——川は、同じだ」

「……はい」

「人も——そうかもしれない」

「どういう意味ですか」

「俺も——昨日と同じ俺ではない」

一拍。

「しかし——立花は、同じだ」

鎮幸は——

川を見る。

しばらく——黙っていた。

「……道雪殿も」

「ああ」

「そう言いそうですね」

「そうだな」

「紹運殿も——」

「ああ」

「そういう男でしたね」

「……ああ」

三人は——

縁側に並んで、座る。

川を——見る。

老いた三人が——

川を、見ている。

「鎮幸」

「はい」

「お前は——まだ、戦えるか」

鎮幸が——少し間を置く。

「……やってみなければ、分かりません」

「正直だな」

「はい」

「俺も——やってみなければ、分からない」

「殿も——ですか」

「ああ」

「七十を過ぎて——」

「ああ」

「……呆れた殿だ」

鎮幸が、低く笑う。

「そうか」

「はい」

「しかし——」

「はい」

「ついていきます」

「知っている」

「どこまでも」

「知っている」

その年の冬。

島原から——報せが来た。

「島原で——一揆が起きています」

「規模は」

「大きい——とのことです」

「幕府は」

「出兵を——要請しています」

宗茂は、報せを——

黙って、聞いた。

十時が、言う。

「殿——」

「ああ」

「七十を過ぎています」

「知っている」

「島原は——遠い」

「知っている」

「それでも——」

「ああ」

「行くのですか」

宗茂は——

縁側から、川を見る。

花宗川が——流れている。

「……九州の民が、苦しんでいる」

「はい」

「柳川の殿様が——黙って見ていられるか」

「……はい」

「立花の義が——そこにある」

「はい」

「ならば——行く」

十時が——

目を閉じる。

「……承知」

「十時」

「はい」

「お前は——残れ」

「殿——」

「柳川を——頼む」

「しかし——」

「増時に——頼んだ時と、同じだ」

一拍。

「柳川を——守ってくれ」

十時は——

しばらく、黙っていた。

「……承知」

小さく、言う。

その目が——揺れていた。

出陣前夜。

宗茂は——一人で、花宗川のほとりに立った。

夜の川が——暗く、光っている。

月明かりが——水面に映っている。

「……道雪殿」

空を——見上げる。

「もう一度——戦います」

「七十を過ぎましたが——」

「まだ、動けます」

一拍。

「お前に——教わったからです」

「足が動かなくても——出る」

「それが——道雪殿でした」

「俺も——そうします」

「紹運殿」

「あなたは——七百で三万を相手にした」

「俺は——老いた体で、島原へ行きます」

「勝てるかどうか——分かりません」

「しかし——」

「やるべきことがある限り——動く」

「それが——あなたに、教わったことです」

「誾千代」

川を——見る。

「また——少し、行ってきます」

「今度は——遠くには行きません」

「九州の中だ」

「すぐに——帰ります」

「水は——待っていてくれるか」

川が——流れる。

月明かりが——揺れる。

その揺れが——

頷くように、見えた。

「……ありがとう」

鎮幸が——庭に来る。

「殿——」

「ああ」

「明日——出ますか」

「ああ」

「俺も——行きます」

「知っている」

「止めませんか」

「止めない」

「なぜですか」

「お前が——残る方が、不自然だ」

鎮幸が——低く、笑う。

「……そうですね」

「ああ」

「どこまでも——ついていきます」

「知っている」

二人は——

川を、見る。

老いた二人が——

夜の川を、見ている。

「鎮幸」

「はい」

「俺は——いつまで、戦えると思う」

鎮幸が——少し間を置く。

「……死ぬまで」

低く、言う。

「そうか」

「はい」

「俺も——そう思う」

「はい」

「立花は——死ぬまで、戦う」

「はい」

「それが——道雪殿から受け継いだものだ」

川が——流れる。

風が——吹く。

夜の柳川が——静かだった。

「……雷は」

宗茂が、小声で言う。

「はい」

「消えないな」

「……はい」

「道雪殿の雷が——俺の中にある」

「はい」

「俺が死んでも——」

「はい」

「立花が続く限り——」

「はい」

「雷は——消えない」

鎮幸は——

答えない。

ただ——

川を、見ていた。

その目が——

静かに、濡れていた。

翌朝。

立花の旗が——動く。

老いた将が——先頭に立つ。

七十を過ぎた体で——

まだ、前を向いていた。

十時が——城門から、見送る。

「……殿」

小さく、言う。

「必ず——帰ってきてください」

かつて——

誾千代が言った言葉と——同じだった。

宗茂は——

振り返らない。

しかし——

「ああ」

一言だけ、答える。

立花の旗が——

秋の空の下を、進んでいく。

雷は——

まだ、消えていなかった。

次回、最終話「雷は消えず」。

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【2日で500PV突破!】西国無双・立花宗茂、その圧倒的武勇と義理を貫いた生涯を描く本格戦記。雷神・道雪に拾われた少年が、乱世を駆け抜ける!
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