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【なろう歴史月間77位!/日間18位】雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【完結済/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第五章「雷、還る」

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第66話 柳川、再び

柳川が——見えた。

水路が——光っていた。

秋の日差しが、堀の面を白く染めている。

葦が、風に揺れる。

岸に並ぶ柳の木が、枝を垂らして水面に触れそうになっている。

二十年前と——

何も、変わっていなかった。

宗茂は、馬を止める。

動けなかった。

足が——止まった。

いや。

止めたのでは、なかった。

止まった。

「……柳川だ」

小さく、言う。

誰にも——聞こえない声で。

「帰ってきた」

十時が、隣で——

黙っていた。

しばらく——

何も言わなかった。

やがて。

「……帰りましたね」

声が、震えていた。

「ああ」

「二十年——」

「ああ」

「長かった——」

「ああ」

「……本当に、長かった」

鎮幸が——

馬を降りた。

柳川の土を——

両手で、すくう。

その土を——

顔に近づける。

匂いを——嗅ぐ。

「……この匂いだ」

低く、言う。

「柳川の——土の匂いだ」

その手が——震えていた。

行軍が——止まる。

百二十名が——

柳川を、見ていた。

誰も——口を開かない。

誰も——動かない。

ただ——

この景色を、目に焼き付けていた。

やがて。

城下から——人が、出てきた。

「宗茂様——!」

「立花様が——帰ってきた!」

「立花の旗だ——!」

民が——集まってくる。

老人。子供。女。

二十年前には——まだ生まれていなかった子供まで。

立花の旗を——見上げている。

宗茂は——

その顔を、一人ずつ、見る。

見知らぬ顔。

しかし——

柳川の顔。

「……ここへ——帰ってきた」

小さく、言う。

「民の——顔が、ある」

「はい」

「水路が——ある」

「はい」

「柳川が——ある」

城門の前に——

増時が、立っていた。

薦野増時。

柳川に残って——二十年、守り続けた男。

その髪が——白くなっていた。

顔に——深い皺が刻まれていた。

しかし——

目だけは、変わらなかった。

「……お帰りなさいませ」

増時が、言う。

その声が——かすかに、震えていた。

「増時」

「はい」

「守ってくれたか」

「……はい」

「柳川を——」

「はい」

「水路を——」

「はい」

「民を——」

「……はい」

増時の目が——赤くなる。

「立花の城は——まだ、ここにあります」

宗茂は——

増時の肩を、叩く。

言葉は——いらなかった。

夕暮れ。

宗茂は——一人で、庭に出た。

花宗川のほとりへ。

川が——流れていた。

変わらず、流れていた。

二十年——

戦が続いても。

改易されても。

浪人になっても。

誾千代が死んでも。

この川は——変わらず、流れていた。

宗茂は、川のほとりに——立つ。

水面を——見る。

秋の光が、水面に散っている。

「……誾千代」

小さく、言う。

「帰ってきた」

答えは——返らない。

川が——流れるだけ。

「水は、待っています、と——書いてくれたな」

「……待っていてくれたか」

「二十年——」

「ずっと——」

「ここで、待っていてくれたか」

風が、吹く。

川面が——さざ波立つ。

その波が——

宗茂の足元まで、来る。

「……来たぞ」

宗茂は、言う。

「帰ってきたぞ」

「道雪殿の——立花へ」

「紹運殿が——守ろうとした九州へ」

「お前が——待っていてくれた柳川へ」

目が——乾いていた。

しかし——

胸の中が、満ちていた。

「道雪殿」

空を——見上げる。

「雷は——消えませんでした」

「紹運殿」

「生きました——言われた通りに」

「誾千代」

「帰ってきました——約束した通りに」

風が——強くなる。

川が——揺れる。

柳の枝が——大きく、揺れる。

まるで——

三人が、答えているように。

十時が——庭に出てくる。

「殿——」

「ああ」

「鎮幸が——」

「なんだ」

「泣いています」

「そうか」

「止まらないそうです」

「……そうか」

「珍しいですね」

「珍しくない」

一拍。

「あの男は——いつも、そうだ」

「……はい」

「肝心な時に——泣く」

「はい」

「だから——好きだ」

十時が——

川を見る。

「……花宗川が」

「ああ」

「変わっていませんね」

「ああ」

「二十年——」

「ああ」

「待っていてくれましたね」

「……ああ」

「誾千代様が——言っていた通りに」

「ああ」

二人は——

しばらく、川を見ていた。

水が——流れる。

光が——散る。

風が——吹く。

「十時」

「はい」

「お前に——一つ、礼を言う」

「何が、ですか」

「二十年——離れなかった」

「……当然です」

「当然では——ない」

「しかし——当然でした」

「……そうか」

「俺たちは——立花の家臣です」

「ああ」

「立花が——ある限り」

「ああ」

「どこまでも——ついていきます」

宗茂は——

川を見る。

水が——流れている。

変わらず。

待っていたように。

「……誾千代」

もう一度、呟く。

「お前の言った通りだった」

「水は——待っていた」

「俺が——帰るのを」

「ずっと——待っていた」

一拍。

「ありがとう」

川が——流れる。

風が——吹く。

柳の枝が——揺れる。

その揺れが——

まるで、頷くように見えた。

夜が——来る。

柳川の夜。

水路の水音が——聞こえる。

虫の声が——聞こえる。

立花の旗が——

夜風に、揺れていた。

二十年ぶりに——

柳川の空の下で。

雷は——

還ってきた。

次回、第67話「柳川の秋」。

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