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【なろう歴史月間77位!/日間18位】雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【完結済/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第五章「雷、還る」

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第65話 豊臣、滅ぶ

報せが、来た。

「豊臣秀頼——自刃」

「淀殿——自刃」

「大坂城——落城」

宗茂は、その報せを——

黙って、聞いた。

十時が、隣で言う。

「……終わりましたね」

「ああ」

「豊臣が——」

「ああ」

「秀吉公の——」

「ああ」

誰も——

それ以上、口を開かなかった。

陣の中が——

静まり返っていた。

宗茂は、大坂城の方角を——見る。

煙が——まだ、上がっていた。

昨日の炎の残りが——

まだ、燻っていた。

「……秀吉公」

小さく、呟く。

「終わりました」

「豊臣が——終わりました」

風が、吹く。

夏の、温かい風。

その風が——

煙を、散らしていく。

煙が——薄くなる。

薄くなる。

やがて——空に、溶けていく。

「……消えたか」

宗茂は、言う。

「はい」

十時が、答える。

「煙が——」

「ああ」

「しかし——」

宗茂は、空を見る。

「消えても——あった、ということは残る」

「はい」

「秀吉公が——天下を取ったことは」

「はい」

「立花を——認めてくれたことは」

「はい」

「消えない」

鎮幸が、低く言う。

「……鎮西一、と」

「ああ」

「言ってくれた言葉は——」

「ああ」

「残ります」

「ああ」

「俺たちが——覚えている限り」

「そうだ」

「立花が——続く限り」

「……そうだ」

翌日。

秀忠から——呼び出しがあった。

「立花を——呼べ」

江戸城。

小さな部屋。

行灯が——一つ、灯っている。

前回と——同じ部屋だった。

秀忠が、座っていた。

その顔が——疲れていた。

戦の疲れではない。

何か——重いものを、抱えている顔。

「立花」

「はい」

「座れ」

「御意」

しばらく——

二人は、黙っていた。

行灯の火が——揺れる。

「……終わったな」

秀忠が、言う。

「はい」

「豊臣が——」

「はい」

「俺は——」

秀忠は、行灯を見る。

「複雑だ」

「……はい」

「敵として戦った」

「はい」

「しかし——秀頼は」

一拍。

「俺が——子供の頃、一緒に遊んだ男だ」

宗茂は、秀忠を——見る。

この男も——

抱えているものがある。

「……殿下」

「なんだ」

「俺も——複雑です」

「そうか」

「秀吉公には——恩があります」

「ああ」

「柳川を——くれた」

「ああ」

「鎮西一、と——言ってくれた」

「……鎮西一」

秀忠が、繰り返す。

「どういう意味だ」

「九州で——一番、という意味です」

「秀吉が——そう言ったのか」

「はい」

「お前に——直接」

「はい」

秀忠は——

しばらく、その言葉を——考えていた。

「……父上も」

「はい」

「お前のことを——話していた」

「家康公が——ですか」

「ああ」

「……何と」

「恐ろしい男だ、と」

一拍。

「褒めていた」

「……そうですか」

「義のある男は——恐ろしい、と」

「はい」

「損と分かって——動くからだ、と」

宗茂は——

答えない。

秀忠が、続ける。

「立花」

「はい」

「一つ——聞く」

「はい」

「お前は——今、何を望んでいる」

第62話と——同じ問いだった。

あの時は——「柳川へ帰りたい」と答えた。

今も——同じだった。

「柳川へ——帰りたい」

「柳川」

「はい」

「関ヶ原で——改易された」

「はい」

「それでも——帰りたいか」

「はい」

「なぜだ」

宗茂は——

懐を、押さえる。

誾千代の文が——そこにある。

「水は、待っています」

「……水が、待っているからです」

「水が」

「はい」

「柳川の——水が」

「はい」

「妻が——そう書いてくれました」

「……誾千代が」

「はい」

「死んだ妻が——水は待っていると」

「はい」

「それを——信じているのか」

「はい」

「根拠は」

「ありません」

一拍。

「しかし——信じています」

秀忠は——

しばらく、宗茂を見ていた。

その目が——

第62話の時と、同じように——

何かを、決めようとしていた。

いや。

今回は——

もう、決まっているように見えた。

「……立花」

「はい」

「お前は——大坂の陣で、よく戦った」

「御意」

「冬も——夏も」

「はい」

「一度も——怯まなかった」

「はい」

「徳川への——義を、示してくれた」

「はい」

秀忠は——

立ち上がる。

「柳川を——返そう」

静寂。

宗茂は——

秀忠を、見る。

「……殿下」

「聞こえたか」

「はい」

「柳川を——返す」

「……はい」

「旧領——そのままに、返す」

「……」

宗茂は——

目を閉じる。

一拍。

誾千代の声が——聞こえた気がした。

「水は、待っています」

道雪の声が——聞こえた気がした。

「強さとは、守ることだ」

紹運の声が——聞こえた気がした。

「お前は、生きよ」

三人が——

待っていた。

「……ありがとうございます」

宗茂は、頭を下げる。

深く。

「必ず——立花を、続けます」

「ああ」

「柳川を——守ります」

「ああ」

「水を——守ります」

秀忠は——

小さく、頷く。

「……御伽の話が——よかった」

「殿下——」

「道雪の話。紹運の話。誾千代の話」

「はい」

「あの話を聞いて——俺も、考えた」

「……はい」

「義とは何か、と」

「はい」

「立花の義が——俺には、分かった気がした」

一拍。

「だから——返す」

宗茂は——

もう一度、頭を下げる。

「……誾千代が」

小さく、言う。

「喜んでいると——思います」

秀忠は——

答えない。

ただ——

小さく、笑った。

部屋を、出る。

廊下で——

十時と鎮幸が、待っていた。

二人の顔を——見る。

「……どうでしたか」

十時が、聞く。

宗茂は——

答える前に。

空を、見上げる。

夏の——青い空。

「帰れる」

十時が——

目を閉じる。

鎮幸が——

拳を、握る。

「……柳川へ」

十時が、言う。

「ああ」

「花宗川へ——」

「ああ」

「水が——待っている柳川へ」

「ああ」

鎮幸は——

何も言わない。

ただ——

空を、見上げていた。

その目が——

濡れていた。

江戸の空に——

夏風が、吹いていた。

温かく。

南から——吹いてくる風。

九州の方角から——

吹いてくる風。

水が——

待っていた。

次回、第66話「柳川、再び」。

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