84話 帰還
最終話です。
明海三十九年 9月17日 払煤国境付近 払綿土側上空
航空機に於ける自動消火装置などといったものは、主翼部分にはついていない。
大体が燃料槽周りについているものばかりだ。
燃料噴射推進器を搭載した暉雲や星影についても同じだ。
一応延焼しないよう気持ちばかりの防火構造が組み込まれているといった程度だ。
つまり。
『こちら城詰……もう駄目そうだ……。左側出力が、低下して戻らない』
「クソ……」
国境さえ越えることが出来れば狙われることも無かったはずなのに。
「……!」
重野は何を言うでもなく、前方の敵を撃つ。
しかし敵機はそれをひらりと躱した。
あの機体の持てる機動力を全て使い、こちらに機首を向け、撃とうとする。
「させるか」
下の無人防空網のこともある。
無理してその対空砲に当たらないように最小限の動きで回避機動を取る。
こちらからの射撃は当たらないだろうが、牽制射撃さえ出来ればいい。
重野は発砲したが、勿論敵機は当たらず、回避した。
当然こちらにも被弾は無かった。
しかし、目の前で爆発する機体。
敵機の一機が対空砲の爆風に巻き込まれ、高度を下げていった。
すると、再び無線。
『こちら城詰。払綿土にこの機体を回収させると、拙いことが起きそうだ。この機体は煤羅射側に“墜とす”。明元、後は頼んだ』
『……了解』
明元大尉の応答後すぐに、城詰少佐の機体はきりもみする速度を上げ、火に包まれながら墜ちていった。
「各機、もう一機の敵機はどこに行った?」
本当は感傷に浸ってしまいそうな陰鬱な状況だが、まだ敵機はいるかも知れない。
『こちら服部。もう一機は先ほど一機墜ちて不可能と判断したのか幟機の後方機銃の牽制に怯えたのか、回頭し、戻っていった。周辺空域に敵機なし。他、不明機も確認できません』
「相坂、了解。明元大尉、次の空中給油地点までの嚮導を頼む。もうすぐ防空網が終わるとはいえ、気を引き締めてくれ」
『明元……、了解』
作戦機が一機減り、陰鬱とした雰囲気がありながらも、未だ防空網の中であるということが、緊張感を保たせていた。
『こちら第三回給油部隊。駆号作戦本隊はいるか?』
『隼翠隊明元から第三回給油部隊へ。駆号作戦本隊、給油地点に到着する。こちらも速度を落とすが、そちらも回頭し、給油準備を始めてくれ』
『もうすでに旋回中だ。……それより、城詰少佐の機体はどうした?』
『城詰少佐は……いない。ここまでの嚮導は明元機が引き継いでいた。作戦についての詳細な報告や反省会は、後でいいか?』
『それは……済まない。給油準備は全機、完了した。近づいて来てくれ』
慣れたことに、すぐに空中給油を済ませた。
「全機、空中給油は終わったな。これより、作戦部隊指揮を再び瑞守隊一番機が行う」
これを言い終わり、溜め息を吐いた。
「お疲れ。操縦を替わる」
「ああ、頼む」
緊張の糸は切れ、既に空は暗くなっていたこともあり、操縦を引き継いだ後には気絶するように眠ってしまったのだった。
数時間後 蓮都付近上空
「もうすぐこの任務も終わりだ、着陸で失敗するなよ。計画通り、要救助者を乗せた機体から着陸させる。給油部隊は悪いが、空中で暫く待機していてくれ」
空中給油機と共に更なる給油機から再度補給して、煤羅射の海岸線まで同行し、そこで分かれ、給油機らは屋端へ。
俺たちは佐波鈴の海峡側まで飛び、そこから佐波鈴の海岸線を眺めるように沿って南下。
更に二度の空中給油を受けて今、作戦を終える飛行場のある基地の手前までやってきた。
「ザワ、夫人の状態は大丈夫か?」
「ああ、何も問題なさそうだな。問題は俺のこの座席で地面に着いた時にケツが痛くなりそうなことだな」
「なら、大丈夫だな」
「相変わらず酷ぇ」
その後、何事も無く、到着。
到着時、まだ十七日だったため、予定よりも早く作戦を終えることとなった。
救助したシクロフスキー夫妻は政府によって一時的に保護され、その後の方針が決まり次第どこぞかに移送されるそうだ。
あとから分かったことだが、夫人は妊娠していたようで、戦闘機動や着陸などによって体調が悪くなるなどといったことも考えられたが、今のところは何もコトはなくて良かった。
あくまで噂だが、救助の見返りとしてHATIに数年間協力後、自由な動きを取れるようになるらしい。
今回の作戦は秘匿された作戦であったこと、現場が煤羅射国内……それも払綿土との国境付近であったことから、城詰少佐と間糠中尉の回収は断念された。
そのことから、二人には三階級特進が与えられ、少佐は少将に、中尉は中佐となった。
そして俺たちと言えば、煤羅射の領域に入った機体に乗っていた全員が昇進・昇給した。
作戦に参加した全員に手当を与えられ、貢献度によってその量は異なるが、休暇も与えられることとなった。
同月 20日 相坂家
「慎宕、少し話が」
休暇を与えられたある日、親父が話を持ち掛けて来た。
話をするために居間の机を囲む椅子に着席すると、母と葵も座ってきた。
「?」
葵が頭に疑問符を浮かべているあたり、向こうは向こうで呼び出されたらしい。
「実は……コホン。自分と母さんは、別荘を買うことにした……というか、買ったんだ」
「は、はぁ……」
別に親子で同居しているとはいえ、それぞれの所帯として余程迷惑になることでない限り、別々の話であることのようである気がする。
「葵さんのこともあって、どうしようかという話もして、これらのことと、あと他にも少し決めたことがあってな」
「あー、なるほど」
その辺りも考えてくれていたのか。
「こっちの家は一週間に三日くらい居ようと思っている。少しこの家を離れるのは葵さんが妊娠で気が立ってあまり近くにいても疲れるかもしれないということからだな。あとは……、そうだな。妊娠周りのことに詳しいお手伝いさんを雇おうと思っているんだが、どうだ?」
仕事柄、あまり家庭での触れ合いというものはあまり無く、また俺もこの仕事に就いてから更に触れ合いも減っていき、こちらへの興味など薄いものだと思っていた。
だが、親父たちもそれなりにこちらのことを気に掛けてくれているらしかったのだと、初めて知った。
俺の、俺たちの人生には、あらゆる人に助けられて成り立っているのだと、改めて思った。
これから先、俺は誰かのことを助けられるのか、そんなことを考えながら、皆と話し合っていくのであった。
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