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暁の水平線  作者: NBCG
本編
92/97

83話 早暮れ

明海三十九年 9月17日 払綿土 某所 上空


―――ズガガガァンッッ!!!


機内が震える。


後方の機銃の音も届く。


その全ての振動が旋回中の機体のうねりにかき消されていく。


ザワからの報告はないため、撃墜にまでは至っていないのだろう。


もとより、牽制射撃なのだろうな。


追ってくる敵機は二機。


その二機の内の一機は城詰機の妨害の成果なのか、それとも単に燃焼噴射推進器を得られたら良いだけなのか、城詰機に集中している。


しかしもう一機はこれまで通り、こちらを後方から狙ってきている。


「服部、大丈夫か?」


こちらにも時折狙ってきているときもあるが、一番狙われているのは瑞守隊の四番機、最後方の服部機だろう。


『ええ、大丈夫ですよ。問題はありません』


しかし、服部は意にも返していない様だ。


敵機は旋回路を省略して来るため、意外と服部機は狙われていないのかも知れない。


狙うとすれば、後続機に精神的疲労を与え、まぐれでも当たりやすいよう部隊の中央部分、二番機、三番機のあたりだろう。


―――。


「やはり敵機も対空砲も厄介だな」


シゲが忌々しそうに言った。


距離を挟んで対空砲の射撃音も少し、聞こえてくる。


「後方の敵機、追跡を中止した……?いや、違う」


「ザワ、どうした?」


「シン、対空砲に対して更に警戒だ!部隊全機に知らせろ!」


「どういうことだ?」


「いいから!直ぐ分かる!」


ザワの言葉で頭に疑問符が大量に現れたが、その答えは目の前に映された。


城詰機に纏わりつく敵機と、更にその先に現れた、先ほどまで斜め後方から狙ってきていたもう一つの敵機。


何事かと察し、ザワの言ったことを無線で伝えようとしたとき、下からの射撃。


「クソ……」


その光景を同じく見ていたシゲが俺の言葉を先に口に出していた。


敵機は何をしたか。


奴は自らの機を、無人対空砲を動かすために敢えて、ギリギリ自身の機に当たらない速度でその射線を通過した。


城詰機は先に狙っていた方の敵機から逃れるための挙動をしていたため、その射撃を避けることができた。


しかし、俺が知る城詰機に迫っていた対空砲の砲弾の中で最も近くの位置で炸裂していた。


『注意!敵機は先行して対空砲を起動させ、それでこちらを墜とすつもりだ。各機、対空砲も舐めて掛かるな。直接狙ってくる機体だけじゃないぞ!』


最早悲痛とも言える、叫ぶような声で間糠中尉が注意を促してきた。


ザワは前方がほぼ見えないはずではあったが、彼の戦場での勘のようなもので察知していたのか。


「にしても……城詰機に纏わりつく敵機もよくやる」


「……そうだな。ふん……不可能ではないはずだ、な……」


「相坂……?」


「離脱ついでに、照準を敵機に向けてみる。射撃を頼めるか、重野?」


「そういうことか……。分かった。だが、期待するなよ」


「友軍機には当てないことだけは期待しておく」


「善処する」


何とも頼りないがこちらも出来ることは限られている。


贅沢は言えないか。


牽制をして嚮導機も要救助者も、そして瑞守隊の隊員、誰一人として失わないならなんでもいい。


重野は航法の確認と無線の調整を一時中止し、引き金に手を掛けた。


唸るような、低い射撃音。


新型の消音器を搭載しており、機内に届く音はそれほど大きくない。


「そうそう当たらないな」


「ま、そんなもんだ。俺たちの今の目標は全機揃って帰ることだ。それ以外はどうでもいいさ。敵機を撃ち墜とせたとしても、帰った時に全機いなければ意味がない」


稈を逆に倒し、先ほどと別方向に旋回する。


「やはりこちらか」


眼前に光の筋。


予想した通り、山の間を省略して来た敵機は今回こちらを狙ってきた。


「危なかったな」


「回避動作をしていなかったら操縦席に被弾していたかもな」


この防空網を抜けるまであと少しのところまで来ているが、敵機らもこちらの“速度”に慣れてきている。


『こちら芙蓉!被弾した!対空砲じゃなくて敵機からだ!今のところまだ大丈夫だが、拙いぞ』


芙蓉機にはシクロフスキー氏を乗せている。


先ほど被弾しそうになったこちらの機体には夫人が乗っている。


最初の要救助者三名の内、一名が既に救出できていない。


どちらかが墜ちれば更に重大な損失だ。


機体も操縦士も失うのも大きいが、それに加えて、だ。


『こちら城詰、芙蓉機に対して攻撃する敵機を引き付ける』


本当に大丈夫なのだろうか。


とはいえ、こちらも軍人でない要救助者を乗せ、その搭乗員数が規定よりも多い状態であるため、戦闘機動で惑わせるということもほぼ不可能であるほどに限定される。


もどかしさだけが身を焦がす。


ただ祈り、早々と国境を越えられることだけを想う他なかった。


国境となる場所はもう目に映っている。


その距離が、こんなにも遠い。


嗚呼、あともう少し。


その時。


『幟!避けろ!左旋回!』


無線から、張り詰めた服部の珍しい声がした。


旋回しながら確認をするため目を部隊の方向に向けると、被弾し、主翼から火を噴いている城詰少佐の機体があった。

次回、最終回。

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