81話 陰達
西暦1934年 9月17日 パーラメント連邦 某所 上空
連絡があり、急遽発進したが、本当にいたとは思いもしなかった。
「黒い不明機の侵入」
作戦説明で話された概要。
詳細というには少なすぎる内容だ。
メラシア帝国側から数度の不明機。
メラシア帝国の有する機体にしてはあまりにも速いとされた機体群。
確認できないプロペラ。
そしてどこの所属かも分からない、深暗色の機体。
以前の報告では2機程度が侵入してきたという話だったが、今回は5機以上存在していることが見てわかった。
メラシア帝国か文華か、それとも浜綴なのか。
距離と方位を考えるのならメラシア帝国が妥当だが、かの国がプロペラの無い機体を作ることが出来るのだろうか。
技術のことも考えるのなら文華だろうか、浜綴だろうか。
今の時点でもっとも技術力が高いのは浜綴だろうが、ここまでの危険を冒してまでどこかからの人間を救出する価値があるのかどうかは分からない。
そしてもう一つ気になるのは機体の駆動方式だ。
プロペラの無い機体と言えばロケットだが、ロケットにしては遅いと思う。
その上、航続距離はどうやって稼いでいるのだろうか?
ロケット推進の特性上、そこまで距離は出ないはずだ。
少ない作戦の詳細から、上層部の意図を予想するのなら、上はアレらの機体を撃ち墜とし、手に入れたいのだろうな。
俺たちの機体も連邦軍の中では現在最高性能を誇っている機体だが、直線の速度のことを考えても、例え距離が短くとも迎撃任務などには使えるだろう。
直線速度に於いては不明機の方が速いだろう。
しかし。
「旋回速度、旋回半径の性能差は明らかだよなぁ!」
ほぼ直線で抜けてこようとする不明機に対して、未だ眼前に捉えながらも期待を捻り、射線を移す。
手に力。
振動と音を兼ね備えた衝撃。
「チッ……外した」
『……こち……外し……旋か……う……』
「何言ってんだか……。はぁ、了解」
機体性能を上げるために、無線機はより軽量に、最低限の性能でもいいように妥協されて製作されている。
その為、航空無線で僚機が何かを伝えているのか殆ど分からないが、聞き取れた単語から連想し、想像して返す。
不明機が緩やかな旋回動作を始めるのを察知してこちらも対応し、先を見通してそれよりもキツイ旋回を行う。
「合計6機か……。内、後方に機銃と見られる機構のついた機が4機……」
初撃が全て当たらなかったとはいえ、何も成果が無い訳ではなかった。
逃してしまったが、その全ての機体に対してのざっくりとした理解を備える。
「山にぶつかるなよ」
『ああ、分かっているさ』
こういう、どうでもいいことだけこの無線は伝えやすいらしい。
「クッ……よっと」
急旋回で体に悲鳴を上げさせた分、距離の短縮がなされる。
翼端で木々の頂きたちを撫でながら、更なる空路の省略を目指し、ショートカットコースを往く。
「次で……」
急がないと逃げられる可能性が高い。
そして、その先には―――。
『もうすぐ“フェンス”だ』
その比喩で表される無人防空網帯域に近づかれると、こちらも最大速度で飛ばなければならない、それも低空で。
「……そういうことか」
エンジンの特性こそ分からないが、あそこまで速度が出せるなら敵機を警戒して高空……それが無理でも地形をある程度無視できる程度の高度で飛ぶはずだ。
そういうことをしないとなると、あの速度を出せる機体だとしても高さを出すと防空網に絡め取られてしまう、ということである可能性は高い。
防空網が近づいて来ている今、彼らはあまり高度を取ろうとしていないということに辻褄が合う。
高度を取ったままでは被弾するであろうし、防空網の入るその前で降下すると速度がついて斜面にぶつかるかもしれないし、そもそも谷で防空網に捕らわれない速度で旋回続きの空路に目が慣れないだろう。
「02へ。不明機は“フェンス”を避けるため低空を高速で抜けるらしい。そのためある程度山の間を抜けないといけない。チャンスだ。あとは分かるな?」
『……01へ。02、了解』
今の微妙な間は、失われた情報を補間していたためだろうか。
「02、理解できたか?」
『出来ている。無駄話は止めて、……に……ぞ』
「そうだな」
最後の言葉はまるっきり分かっていなかったが、指摘するような返答もなかったので、これでよかっただろう。
距離、相対速度……今ならまだ間に合うか?
射撃。
曳光弾が残す射線は不明機と交わらずに消える。
「戦闘機の中では一番射程が長いが……相手が速いのか」
発射エネルギーの効率化の実験で得られた効果があるのか、この専用の機銃は射程が長い。
その副次的な効果なのか、射撃音も低減され、耳への負担も少なかった。
静穏性が高いため、俺たちの“本来の任務”に適している。
「―――!?」
本能の揺さぶり。
次のショートカットをするための旋回の準備を行う。
光る不明機の後尾、何かが風を切る音。
「敵」
『―――』
ノイズしか聞こえなかったが、意味は分かった。
「空の緑は消え、“フェンス”も近い。速攻で決めるぞ」




