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暁の水平線  作者: NBCG
本編
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75話 渡り

明海三十九年 9月17日 〇八〇〇時 煤羅射 山岳地帯 空域


高緯度地域であるため、未だ日は昇っていないが、そろそろ空に明るみが差す頃だ。


「重野、起きろ」


「……zzZ」


「おーい」


「……ングッ……ふぅ。ああ、今起きた」


「水でも飲むか?」


「いや、まだいい」


「引継ぎ時間は一〇分で大丈夫か?」


「ああ。五分でもいけそうだ」


「軽口が叩けるなら二分にするぞ」


「それはお前が嫌だろ」


「それもそうだな。まだ死ねない。……一〇分だ、状況を説明して引き継ぐぞ」


「うぃ、了解」


一〇分後


「じゃ、俺は寝る。ぶつけんなよ」


「任せろ」


今日の午前一時ごろから起きて約七時間。


就寝時間としては起床時間との比としても絶対的な時間としても早いものだが、操縦の疲労を鑑みれば妥当だろう。


と、いう訳で、おやすみなさい。


数分後


「……zzZ」


「とは言ったものの、あんまりなんだよなー」


「あんまりって?」


「シンほど触ってないからな、この機体。勿論発着やら、普通に飛ぶ分には問題はないが……。そこまで自信はない」


「おいおい、墜ちてくれるなよ」


「墜ちる気もないけどな」


「それならあんまり不安になるようなことを言ってくれるな」


「それは失敬」


「……zzZ」


「それにしても、俺に寝れるのかどうかを訊いてきた割にはすぐに寝たな、シンは」


「そう言えばそうだな」


「俺だって作戦開始から一時間そこいらは起きてたってのに、こいつは数分で寝たな」


「慣れない臨時の大部隊を引き連れ真っ暗な異国の空で機密性の高い任務、疲れもするさ」


数時間後


「ん、んん……」


「あと三〇分は寝てられるぞ」


「いや、いい」


「そうか」


「雑談がてら、状況の説明を」


「概ね問題は無い。少し予定より遅れているかも知れないが……」


「どれほどの遅延だ?」


「一〇分から二〇分ほどだ」


「まあ問題はないか……。遅れた理由は?」


「給油機が数機速度でこちらを見失うかも知れないという報告を受けて直線となる空路や緩やかな旋回で済むところをこの作戦に於ける巡航速度を少し遅らせたんだ。あまり詳しく計測も計算もしてはいなかったが、だいたいそれくらいだと思う」


「分かった。となると位置は……」


「まだ煤羅射だな。払綿土の無人防空網までもう少しだ」


「それは大体分かる」


日は昇っており、風防から外の状況が伺える。


勿論旋回の感覚も伝わってくるため、今が煤羅射の山脈を縫うように飛んでいることが当然の如く分かる。


「他にあったことと言えば―――」


数十分後


「引継ぎ業務は以上だ。何か質問はあるか?」


「今のところはない。何かあればまた聞く」


「了解した」


座席と時間帯の所為か、あまり体力が回復した気はしない。


が、これからがこの作戦の大本命のところ、頑張りたい。


「第二回給油部隊、給油準備開始」


『『『了解』』』


第一回目と変わらず、給油を開始する。


今は日中であるため、楽ではあった。


『こちら隼翠隊一番機、城詰機に対する給油担当機。給油機能が故障している。他に故障機体がなければ、予備機に城詰機の給油を依頼したい』


「状況を確認。他に給油機能に問題のある機体はあるか?」


多少問題は起きたが、想定の範囲内でことは進んだ。


「全機、給油済んだな。給油機能故障機体は他に問題などはないか?」


『大丈夫だ。重量による航続距離も他機の給油機能を逆向きにして別機に分配が可能であり、帰りつつこちらで調整する。これは最初から予備機の分配に於いても予定されていたもので、心配は無用だ』


「了解した。気を付けて帰れよ。……現在時刻を以って、作戦機を瑞守隊及び隼翠隊に限定する。さて、ここからが正念場だ。払綿土の防空網を抜けるため、高速巡航を行う。暫くは山だが、シクロフスキー氏らの体力も気になる。急ぐぞ。改めてだが、大きめの川が見えたら防空火器がお出迎えしてくれると思え。瑞守隊相坂より隼翠隊へ。いつでもシクロフスキー氏らの無線を返せるようにしておいてくれ」


『隼翠隊隊長城詰、了解した』


『隼翠隊二番機明元、了解』


「夜よりは見やすいが、速度が大幅に上がる。前の機体を見失うな。そして山にもぶつかるな。自分が死ぬだけではなく、仮想敵国の中でも気が立っている国に国家機密の塊を明け渡してしまうことになるからな」


『『『了解』』』


「良い返事だ。高速巡航まで秒読み開始、五秒前」


出力挺を握りしめ、再度気を引き締めた。


この作戦が始動して幾度秒読みの場面に入った事か。


そして今回に関しては俺自身が行う。


こんな緊張を背負う役目になるとは、次からはしたくないものだな、まったく。


やはり俺は攻撃機部隊の一部隊だけを率いて通常の任務を熟すのに適している気がする。


「今」


グン、と速度が上がる。


加速曲線は緩やかとなり、身体への負担は軽くなるが、維持された高い速度が精神に緊張を与えた。


高速巡航をしてから一分と経とうとするかしまいかというとき。


「川が見えて来たな……」


既に国境を越え、新たな主義が支配する土地であることを示す符号が見えた。


「各機、気合を入れろ。花火大会だ」

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