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暁の水平線  作者: NBCG
本編
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76話 至黒は伏す機のため

西暦1934年 9月17日 パーラメント連邦 某所


「食料も燃料もギリギリだな」


「本当に今日の夕暮れまでに来るんだろうな?」


「そのはずです」


この地に着いて十数日。


歩いて行ける距離に自然の多く残る大河が通っていたのは良かったが、周りには殆ど何もないと言っても過言ではないため、不安は残る。


亡命に使った飛行機の中に積んでいた携帯食料も底を突き、燃料もあまり無い。


ある程度の巡航速度があり、離着陸に使う距離の短い機体を使ったため、高速で防空圏を抜けることが出来ない。


それは分かっていたため亡命する前にメラシア帝国に存在する設計局の分流として残る別の研究所であるコロドコ設計局に手紙を書いたが、私たちが出立する前に手紙が返ってくることはなかった。


そこでこのあたりに着陸する前に無線を用いて救難信号を出したが、これまたメラシア帝国が返すことはなかった。


しかし、別の国から通信があった。


大浜綴帝國。


彼らがどんな真意があって私たちのことを救助するのかは分からない。


ただ、私のことを航空機技術者であることは分かっているらしいので、その技術が目当てである可能性は高い。


まあ、無反応なメラシアよりはまだ助けてくれるだけ良いのかもしれない。


「歌ってくるものは口笛を吹いて去っていく」とは言うが、「鉄は熱いうちに打て」、「寝ている猫の口にネズミは来ない」とも言う。


メラシアでは「恐怖の目は大きい」とも言う。


そもそもここで死ねば後は無い。


つまり退路は無かった。


「これが最後の薪になるといいな」


「そうですね。ついでにコイツも使わずにいられるといいですが……」


男は背中に担いだアサルトライフルに目をやり、担ぎ直した。


「ここまで何もなかったんだ、きっとないだろうさ」


「そうですか……」


最初こそどうなることかと思ったが、彼らが到着するのなら問題はないだろう。


問題は彼らが来なかったときと、彼らが来る前にパーラメント連邦軍が来た時だ。


前者の場合はもう諦めて、歩いて国境を越えられるかの考えにいかなければならないが、後者の場合は考えることが増える。


どこから連邦軍がするのか、安全に救援部隊に乗り込むにはどうすればいいのか、パーラメント連邦軍が来てから救援が来ないとなるとそれはそれで早期に投降した方がいいのではないか、など。


―――ッ。


「「!」」


二人して気が付く。


「聞こえたか?」


「ええ。急ぎ、戻りましょう」


「……そうだな」


空を見上げた私とは対照的に、操縦士の男は地面を見ていたが、思うところは変わらないだろう。


救難用の航空機がもうすぐ到着するだろう。


こちらの位置を無線で知らせるため、逃亡してきた機体と妻がいる平野に戻ることにした。


同時刻 パーラメント連邦 某所


「暇だな」


「ああ。ここ最近、2回だか3回だか、不明機の侵入があったのがまるで幻なのかとも思えるな。若しくは誤報か」


「そうかもな。密集した鳥の群れでも反応するときは反応していたような感度で探知していたからな。やっぱりある程度感度を落としたのは正解だったな」


「にしても、赤色空軍が見たのは何だろうな?」


「さあな。見間違いとか、それとも仕事をしたことにでもしたいのか、そんなところだろう」


「なるほど。そういうこともあるか」


「ま、彼らも大変なんだろうな。こんなところの、更に寒くて何もない飛行場から飛び立つか、湿気た山の中のトンネルに潜んで、レーダーが鳥の群れを見つけたら何もないと分かっていてもいつかぶつかりそうな山の間を飛ばなきゃならんのだから」


「トーチカでカードの賭けをしている俺たちとは訳が違うな。可哀想に」


「だな。……空軍と言えば、こんな話を聞いたか?」


「どんな話だ?」


「一部の国境の部隊に新型の機体が配備されたらしい」


「不明機の侵入とあらば誤報であっても、新型機は入れたいところだが……。新型機?軍の中でも聞かない話だな。どんな機体だ?」


「分からん」


「はぁ?」


「ただ、生産数を少数に絞ってその分工場作業員ではなく、一つ一つ技術者が組み立てるっていう方式で生み出された高性能機体らしいな。そして噂によると、黒い機体らしい」


「なんだそりゃ?全機体が黒く塗装されているか、黒い素材でも使われてんのか?」


「全機黒く塗装されているらしいが、問題はそこじゃない。ヨゴレ仕事に使われるっていう話だ」


「ああ、それで。国境の不審機体を追うのには最適って訳だな。どんな訳アリの機体でも撃ち墜とせるような任務に使うって訳か」


「この地域での“機関”の動きも何故か活発になってきているし、こんな辺境で騒がしくなるのは二度とないのだろうな」


「まさかこんなところまで“機関”の連中が来ないだろうな?俺たちが任務の時間の殆どを賭けカードに費やしていることなんか知られたら、少なくともラーゲリ送り、最悪その場で殺されかねないからな」


「ま、流石に無いんじゃないか?今の“機関”が追っているのは俺たちみたいな職務や義務の放棄をしているようなヤツを追っている訳じゃなく、どこからかの亡命者って話だ」


「こんなところに亡命する物好きがいるのか?」


「これも噂の一つだ。何か情報が削ぎ落されているか、それとも尾ひれがついているんだろうよ」


―――ッ。


「そうそう死ぬようなことが無いと分かって安心だ。じゃ早速、次の賭けを……ん?」


「どうした?」


「何か音が聞こえないか?高くて変な音が外から……上?」


「お前、耳がおか」


それ以降、彼らの記憶が紡がれることは二度となかった。


彼らが最後に残った記憶は、何かが爆発した音と、その爆発が起こした爆風が彼らの居るトーチカの中で暴れまわり、そこにいた全員の身体がバラバラになっていく途中の光景だった。

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