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暁の水平線  作者: NBCG
本編
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67話 状態遷移

明海三十九年 9月3日 大浜綴帝國 高須賀海軍基地


「新艦艇の追加、再編か……」


壁に掲示された紙を見て、朝にされた報告で軍に更なる艦の追加が示されていたことを思い出した。


「にしても、変だな。『気象観測音響測定艦』だなんて、この艦隊に編入って」


独り言ちていると、近くにいたらしい所沢から反応があった。


「どうやら航行艦隊にも、一隻編入されるらしい」


「はー……。どちらも二線級の艦隊に編入されるって話だったが、それでも不思議なもんだな」


「艦種名からして、気象の観測と音響測定……海底の地形を測定する艦種らしいが……。二線級の艦隊とはいえ、前線の艦隊に組み込まれるのは確かに異様に感じるな」


「なーんか変な思惑でもされてんのかねー」


「かもな」


「また政治の中で編成やら配置やらで揉みくちゃにされる前線のことを慮って欲しいもんだぜ」


俺たちは悉く政治の動きに翻弄されている。


親父にもこんな経験があったか聞いたことがあったが、本人曰く、殆ど無いと。


軍の編制や戦争自体、政治の盤面の一つとも言われるが、通常の軍の業務以外に直接政治の意思が軍に介入するような事柄があったとは記憶していないと言っていた。


予備軍人となって民間に行った後、軍に呼び出されたことや、そこで実は軍が隠蔽していた事実などがある、ということは明らかだったことの一つらしいが、それ以外は本当に少なか


政治的駆け引きの中で末端の軍人が動かされるのは戦争以外には少ないと言っていた。


と、いうことは、俺たちだけが振り回されている、ということらしい。


今回の編制は、軍全体のことで、俺たちだけが特別その影響に晒されるというわけではなかったが、今まで俺たちが遭遇してきた政治的な戦略に直接動かされてきた回数は伊達ではない。


「とはいえ、俺はシンにも一言、言いたいがな」


「別に『アレ』は俺がどうとかという問題でも無いだろう?」


「だけど事前の体制の準備が無いと面倒なコトになることは分かっていただろ?」


「そうは言ってもいつかは当たる問題だっただろうよ。俺たちが結婚しても制度整備の進捗が進まず、ほったらかしにしていた上層部にも問題はあったはずだ」


「はぁ~……言うねぇ」


所沢に指摘されたことというのは俺の……俺たちのことだ。


それはおよそ二週間前のことだった。


葵は突然吐き気を催したらしい。


それだけだと少し体調不良なのかとも思われたが、体調の変化はそれだけではなかった。


元々鼻が良かった葵だが、通常よりも匂いに敏感になり、食事面に於いては酸味ある食べ物を多く欲するようになった。


俺の母親がこのことから気が付き、妊娠している可能性が高いということに気づいたという訳だった。


そしてこの事実を知った軍上層部は結構焦った対応になってしまったらしい。


何せ今も尚、このための規則の整備がなされていない。


上層部の一部がまだその辺りの会議をしているのかも知れないな。


現場の対応はというと、「重いものは持たせない」、「過度な力仕事はさせない」ということで取り敢えず纏まったらしい。


台車やクレーンを使うため、そこまで重いものを持つことはあまりないが、それでもエンジンやら何やらの換装で機体から台車にまで移し替えたり、結構力の要する螺子止めやらを開けたり閉めたりするときはあるので、母体のことを考えてその作業を行うときは他の人たちを呼ぶように、と言われているとのこと。


しかし、葵の性格上、一人で抱え込んで無理するところがあるため多少心配ではある。


その内大きく動くことも出来なくなってしまうため、そのための人員を現在手配中でもあると、風の噂で聞いた。


あと数か月は艦に乗ることとなるはずだが、お腹が大きくなってきたら降り、子供を産んだ後の処遇は未定である。


代わりの人が整備士として来て、その人がそのままこの部隊の配属となるのが先か、何か軍規則の整備が先になるのか。


兎も角、俺にできることはそこまで無いのだろうなと、改めて思うのであった。


同日 メラシア帝国 某所 コロドコ設計局


「所長、お手紙が来てます。……それも、国際便だそうです」


「国際便?また珍しい。どこからだ?」


「えぇと……、カレロ=フィン王国からみたいです」


「カレロ=フィン王国か……面倒事な気がするな……。見せてくれ」


「どうぞ」


所長と呼ばれた男が国際便の手紙を受け取った。


「ふぅむ……」


「……」


手紙を読み進める男をじっと見守る周りの人たち。


「……ん?君たち、さっさと自分の仕事に戻れ。何かあったら伝えはするから」


「す、すいません」


「……はい」


そして蜘蛛の子を散らすように散開し、周りはいつもの業務へと戻った。


「はぁ……」


男は思わず溜息が漏れ出た。


「そこまで信用を受けてあまり検閲がなされていないというのはいいが、こういった書類は検閲してほしいものだな。それに態々政府に返さなければならないじゃないか」


男は手紙を扇ぐように再度確認し、頭の中で政府に対してどう捕捉説明を書き記し、設計局としての見方、方針を伝えるのかを考えるのだった。

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