66話 干渉
西暦1934年 8月25日 イギンダ連邦 ワトキンスD.C. ホワイトハウス
「ユーシア各国は遂にパーラメントとカレロ=フィンの戦争に対して、カレロ=フィン側への援助を決定したか」
「はい。現在は経済と武器弾薬に於けるものだけですが、派兵も時間の問題に感じます」
「……そうか」
「大統領?」
「我々も、遅れは取れない」
「……お言葉ですが大統領、それは―――」
「これを見てくれ」
秘書の言葉を遮って、紙束を差し出す大統領と呼ばれた男。
「国際情勢に流され……って、これは」
「勿論、名目としてはパーラメント連邦のイデオロギー拡大の阻止と、虐殺されるカレロ=フィン王国軍の援助、ということにする」
「……目的は分かりました。しかし大統領、我々はレンドリースによってパーラメント連邦に対し、兵器の貸与を行っているため、他国の戦争、それも敵側に対して援助を行えば、レンドリースの代金の踏み倒しと、このことを事実として認知している各国に対して信用が低下する恐れが」
「それには及ばない。少なくとも我々の目的は“それ”だけだ。“それ”の確保さえ完遂できればあとは戦況がどうなろうと問題はない。そのついでにパーラメント連邦のイデオロギーの拡大阻止を名目にユーシア諸国の信頼も得られればいい。それに、世界大戦時の国債がまだまだ残っている。国際社会に対して影響力そのものが低下する可能性はあるが、影響力とは使えるときに使うものだからな」
「承知いたしました。では、他国との“話し合いの場”を?」
「ああ。だが“配慮”はしてくれよ?」
「“それ”自体は公にする形で?それともあくまで国際交流という形で、ゴルフでも?」
「後者の用意を頼む」
「分かりました。これから各部署への呼びかけと、準備をいたします」
「頼むよ」
同日 パーラメント連邦 某所 ポポフ設計局
「つまり、少数の生産で、高出力、高機動の機体を?」
「はい。知っての通り、今現在我が軍は前線機体としてПп-25とПп-27、Аг-7を少数使用している以外はイギンダのP-39を使っている。その中で戦闘機はПп-25とP-39、戦闘機としても扱える機体を含めてもАг-7が挙げられる程度。しかも、能力を言えばP-39の能力が最も高いというのが少々問題でしてね」
「我が国の戦闘機戦力を他国に頼っていることを?しかし、それでは少数で良い理由は分かりませんが……」
「我々が望むのは首都防空用の機体です」
「首都だけを?前線用途ではなく?」
「もう少し言えばヴォルガグラードなど主要都市を防空するための戦闘機、です」
「もしものことがあった場合……もしも敵軍が一矢報いようと帰還を考えずに高速で主要都市に爆撃を仕掛けてくることなどを想定し、それを阻止するための戦闘機……ですか」
「そう考えて貰って大丈夫です。高性能戦闘機は流石に売っては貰えませんし、こちらも高性能機を量産体制に移行して生産できるとも考えていません。ですので、少数機を」
「具体的にはどのような性能で、どれくらいの生産数で?」
「最高速、機動力を重視し、航続距離は中距離……長距離程はいりませんが、あまり短くても問題があるので。あと、出来れば、離陸を短距離、短時間で行えるようにしてもらえると嬉しいですね。生産数はそうですねぇ……50から100程度を。各所に16から24の配備、練習用と予備機、数そのものが少なく、性能を保つため整備を回してさせるため、その為に少し多めの追加の予備機をと考えて、そのくらいですね」
「それは……まぁ、そのくらいの数で今よりも良い戦闘機を作ること自体は可能です。今までは、量産体制に合わせた性能となっていましたから……。それにしても、短距離ではなく、中距離程度の機体、ですか?」
「それは追いかけるため……、一度の迎撃で失敗すると高速機に対応するにはそれなりの航続距離も必要だろう、という考えからです」
「なるほど……、分かりました。早速取り掛かりましょう」
「それでは、よろしくお願いします」
こうして、出したお茶の半分も飲まぬまま、連絡員は設計局から立ち去っていった。
「いいんですか、局長?」
「『いいんですか』って、良いと言う以外何か出せる回答はないだろう?」
「しかしこれでは初代局長のときに、開発した機体二つが国のためにと製造独占権を失ってしまったときと同じじゃないですか」
「私だって悔しいさ。しかしな、今の政府じゃ仕方ないことなんだ。帝国時代は皇帝の名の下に存するということだけだったが、今のポポフ設計局は明らかにパーラメント連邦に隷属する組織ということだ。下手にこちらから口を出せば、粛清されても仕方ない。現にカーリンの所も粛清で閉鎖されてしまったしな。前例がある分、私たちも下手を打てない。今、この設計局があるのは初代局長がパーラメント連邦に恭順を示して降りたこと、今までその姿勢を崩さずパーラメント連邦第一の航空機設計局をしたことで存在が許されていると言っても過言ではない。確かに外部組織からの命令、口出しだが、態々反発して粛清の可能性を得る必要はない」
「……」
「どの道、やることはきっと変わらんさ」
男はそう言って話を切り上げ、新たな紙を取り出したのであった。




