64話 星影
明海三十九年 8月5日 太平洋 洋上
『松果隊より瑞守隊へ。現状を報告せよ』
「こちら瑞守隊一番機、相坂。機体の状況は良好、問題無し」
『二番機、芙蓉、問題無し』
『三番機、幟、問題ありません』
『四番機、服部、まだ稈が手に馴染まないが、機体に問題はない』
瑞守隊の整備班は優秀で、機体の調子は全て良好らしい。
「瑞守より松果、高度も各機安定、編隊の維持を継続中。いつでも演習が可能だ」
『松果、了解。一〇一五に状況を開始する、それまで待機せよ』
「瑞守、了解」
松果隊は第一九一航空群、第一〇一偵察大隊に属し、比較的小型の司令偵察機、「僧雲」に搭乗している松栄明吾大佐が現場に司令を下す。
応龍で司令偵察機に乗り、現場を指揮していた咲銛隊の森崎少将は空母応龍に残り、練習空母に於いて練習部隊の監督を行うこととなり、現場の第一線からは退くことにしたらしい。
彼自身、その立場より上の昇格にはあまり興味がなく、その状態で退役しても金銭的な老後の不安はないらしいことからもその立場に甘んじたのだろうとも言われている。
閑話休題。
『松果隊より瑞守隊へ、演習開始!』
時が少し経ち、演習が開始された。
「新型の推進器のこともあるし、あんまり低空では飛びたくは無いな」
「少なからず潮風が推進器に及ぼす影響はありそうだからな」
燃焼噴射推進器は従来の内燃機関と比べ、外気を取り込む量は多いはず。
更に最新の技術で作られているため、潮風に当てられると故障する可能性は高まるはず。
「瑞守より松果、洋上の低空飛行は推進器への負担が懸念されるが、本当に大丈夫なのか?」
『松果隊から瑞守隊へ、星影は雷撃攻撃を想定していない。雷撃の為の高度まで下げる必要はない』
「瑞守、了解。各機、雷撃の為の高度まで下げる必要はないとのこと。相坂機に続き、高度を合わせよ」
『『『了解』』』
今までの機体よりも速い速度で演習が行われる。
「模擬弾投下まで五秒前……、三……、二……、……。今」
「投下」
『相坂機より模擬弾の投下を確認』
投下から暫くして、松果からの報告。
『松果隊より瑞守隊へ、模擬弾投下の想定結果を報告する。一番機は四半秒早い、二番機は四半秒遅い、三番機は半秒早い、四番機は一秒遅い』
「瑞守了解した。各機、今の投下を踏まえ、投下方法を修正せよ」
そして返される応答。
「悪ぃ、少し逸ったかもしれん」
「俺も速度をまだ速めたままだった。お互い、次は成功させよう」
「ほいよ」
ザワからの自首に、こちらからも不手際を晒す。
「瑞守隊各機、分かっているとは思うが、今までの機体との速度差で投下に関する計算を間違えないようにな」
部隊機らに注意喚起し、旋回する。
『瑞守隊各機、模擬弾を任意に投下せよ』
そして再び投下される模擬弾。
投下後、再び想定結果が達せられる。
『一番機は至近弾想定、二番機は命中想定、三番機は半秒遅い、四番機は四半秒遅い。以上だ。これにて瑞守隊の演習を終了する。帰投せよ』
松栄大佐の声で、瑞守隊は一斉に帰投進路を取ったのであった。
「ふぅー……。今回はいつもより調子が悪かったな」
瑞守隊は機種を変更したときでも、攻撃機であれば、四機の内の一機くらいは初弾で至近弾想定の判定を出せるほどの精度ではあった。
「仕方ないさ、この速度域で初弾を放ったことなんてないし、そもそも星影以外の機体でこの速度を出していた機体なんてまずないからな。それで二弾目までに至近弾想定と命中想定をそれぞれ一発ずつ出せたのは十分だと思うぞ」
「……そりゃどうも」
俺の独り言にシゲが庇護した言葉を口にしたことに少しの驚きをもって返して、話は止んだ。
そうこうしている内に煙龍まで折り返し地点。
無言が続くと、ザワが口を動かしついでに話を始めた。
「それにしても相坂が結婚するまで、思ったよりも掛かったな」
「そうか?」
「ふぁ~ぁ……。俺は『高砂事変』後にでもするかと思ったんだがな」
シゲは欠伸しながら心中を吐露した。
「なんでそんなに早く……。その頃は互いに何とも思ってなかったはずだが」
「鈍っ……。倉田も奥手だけど、そりゃ、あそこまで掛かった訳だ」
「全くだな。ザワの計画も俺はやりすぎだと思ったが、今、改めて考え直すと二人の性格やらを考えると一番可能性で言うとアリではあったな」
「は?計画?」
「おいっ!?」
「あ」
どうやら俺の与り知らぬところで、何かが動いていたようだ。
「どういうことだ?」
「言うか?」
「いや、言わねぇよ!」
「ザワ、隊長命令」
「職権の乱用が過ぎるっ!?」
一通り言い合いをした後。
「所沢、俺は操縦桿を持っている。そういうことだ」
「そこまで知りたいのかよ……。分かったよ言うよ」
裏で何かとんでもないことが起こっていたのかどうか、俺には知る必要はあるだろう。
多少卑怯な手段で脅したが、少なくとも葵にも関わっている話であるだろうし、場合によっては何かにケジメを付けなければならないことにもなるだろう。
何かは知らないが。
そうして所沢は口を割った。




